亘

ホロコーストの罪人の亘のレビュー・感想・評価

ホロコーストの罪人(2020年製作の映画)
3.8
【国に裏切られた者たち】
ブラウデ家はナチスの迫害から逃れノルウェーで暮らしていた。しかしある時警察が突然逮捕状を突きつけ男たちは収容所へと送られる。その後の1942年11月。ノルウェーの秘密警察はユダヤ人をアウシュビッツを送る掃討作戦を実行する。そしてブラウデ家の人々は引き裂かれることとなる。

ノルウェーが国家としてホロコーストに加担していた実話をもとにした作品。他のホロコースト作品にも劣らない壮絶なシーンも多いけれど、本作が異なるのは主にナチ党員ではなくノルウェー国家によって収容や迫害が行われたということだろう。これは2012年になって初めて国家から認められた事実で、それを題材にした本作はノルウェー国民にとっては衝撃的だっただろう。しかし母国の過ちに真摯に向き合う本作が存在し評価されることは、ノルウェーが健全であることのあかしともいえるかもしれない。

ユダヤ人一家のブラウデ家はノルウェーでソーセージ店を営み暮らしていた。次男のチャールズは有名なボクサーで、ノルウェー代表としてスウェーデン選手と対戦し勝利するほどだった。さらに彼はラグンヒルと結婚し幸せな日々だった。

しかし彼はある時に警察から突然逮捕され収容所へと送られる。収容所では集められたユダヤ人の男たちが強制労働をさせられ、さらには看守からのいじめもあった。一方で町に残された女性たちも迫害を受ける。チャールズの母親は財産を没収され、隠れながら暮らしている状況だった。

そして1942年11月のある日ノルウェーの秘密警察が動く。ユダヤ人女性も集めてアウシュビッツに送る掃討作戦を秘密裏に始めたのだ。男性は収容所から直接船へ送られ、女性たちは家から引っ張り出される。その後はガス室での虐殺へと続くわけだが、その中で印象的だったのはかすかな人間味を感じるところ。例えばユダヤ人女性を送るタクシーの運転手は、「自分だってユダヤ人を追い出したい」と言いつつもちんたら仕事してわざと船に間に合わないようにする。そこで1人別のタクシーに移すとなれば、母子を守るためブラウデ家の母が率先して乗り移る。またアウシュビッツでブラウデ家が再会すれば集まってハグをする。このブラウデ家の姿は家族愛を感じるとともに切ないシーンだった。

本作の描く事実の壮絶さには心が痛むけれども同時に構成に少し気になる点もあった。おそらくは史実に忠実であるのかもしれないが少しモヤモヤしてしまった。
まず本作はブラウデ家の中でも次男のチャールズをメインに描いた作品だろう。序盤はひたすらチャールズの幸せな様子が描かれているし、本作はそこからの落差を描こうとしたのだと思う。しかしチャールズの話は収容所で終わり、チャールズの後日談は文章で知らされる。妻との関係について、どういう経緯だったのか気になる内容だし、そこにドラマや葛藤があっただろうが全く描かれないのだ。
また秘密警察の幹部ロッドが重要人物かのようにたびたび出てくるものの、なぜそこまで注目しているのかわからず伏線が改修されていないような気分になった。たしかにユダヤ人弁護士夫婦とのやり取りは作中からわかるが、このロッドの葛藤が描かれていても良かったようにも思う。

構成としては釈然としない感じがあったものの、やはり収容所の過酷な環境など忘れられないシーンも多い作品。史実として記憶すべき重要な作品だと思う。

印象に残ったシーン:ブラウデ家の母がタクシーを移るシーン。故障したタクシーを置いて船が出航するシーン。収容所の前でブラウデ家が集まってハグするシーン。