ラウぺ

ホロコーストの罪人のラウぺのレビュー・感想・評価

ホロコーストの罪人(2020年製作の映画)
3.8
ノルウェーに亡命してきたユダヤ人のブラウデ家では、ボクサーのチャールズがノルウェー人と結婚し、ささやかな幸せを享受していたが、ドイツの占領により、一家には過酷な運命が待ち受けていた・・・

ノルウェーにおけるホロコーストの状況をブラウデ一家のたどる運命を通してノルウェー人がホロコーストに加担した様子を描いていきます。
ホロコーストの犠牲者の数は、西欧諸国に限って言えば、オランダで21.7万人、フランスで8万人、ベルギーで2.4万人、デンマークはある意味特殊で77人に止まっているのですが、ノルウェーには2173人のユダヤ人が居た中で、765人(計算の仕方の違いか728人とする資料もある)となっています。
単純な数の上ではそれほど多くはありませんが、問題は被占領地域でナチスのホロコーストに有無を言わせずに協力させられた政府機関の職員や、また民間人でもユダヤ人の排除に積極的に加担したかあるいは賛成していた者も少なからず居た、という事実は重要なポイントだと思います。
ノルウェーに限らず、ナチスに占領された地域では例外なしにユダヤ人は隔離・強制連行が行われ、最終的には強制収容所での処刑というプロセスが殆ど自動的に処理されていったわけです。
英国領のチャンネル諸島ですら強制収容所が置かれ、占領下の英国人警官はユダヤ人の強制連行を実施していたりもする。
こうした問題は戦後になって暴かれたくない過去という問題として一種のタブーでもあったはず。

映画の原題は“Den største forbrytelsen”『最大の犯罪』とのことで、ノルウェーにとってホロコーストとの関わりは、恥辱の歴史として記憶されていることの証かと思います。
そうした背景もあってか、本作ではブラウデ家の辿る運命を、非常に丁寧に、ある意味で真摯に描いており、過度な演出を避け、市井の人々であったはずのユダヤ人一家がノルウェー人の手により過酷な運命に遭うさまを描いていきます。
主役はあくまでブラウデ家の面々で、登場するノルウェー人は秘密警察のクヌート・ロッド以外にはこれといった人物は登場せず、傀儡政権の首班であったヴィドクン・クヴィスリングといった“主犯”に相当する人物は名前も出てきません。
上記の微妙な問題をテーマとしている部分からか、あえてホロコーストに関与したノルウェー人たちのメンタル的な背景や立ち位置を明確にしない意図があるのではないかと思われます。
ロッドが署内の壁に掲げられたヒトラーの肖像画を見てふと立ち止まり、複雑な表情を見せる場面がありますが、その内面でどのような葛藤があったのかなかったのか、その様子から窺うことはできない描写となっています。
これはノルウェー人の関与を非難したり、その度合いを抉り出すといった表現を避けることで、観た者がこの“最大の犯罪”で犠牲となった人々の運命を直視し、こうした問題に直面した場合どのように振る舞うべきか、内なる自分に問いかけるように促しているということなのではないかと思うのです。

映画のテーマあくまでノルウェー人に向けられたものですが、圧倒的な権力下で不正義が行われようとしているとき、人は何ができるのか、あるいはできないのか、それを見極めることの重要さを改めて認識しなければならないのだと思うのでした。
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