ロアー

マシュー・ボーン IN CINEMA 赤い靴のロアーのレビュー・感想・評価

4.5
マシュボ作品の有料配信が始まったと知ってすぐ、唯一まだ観たことのなかった「赤い靴」のストリーミングチケットを取りました。これが昨年11月のこと。3/31まで見放題ならまだまだ何回も観れる!と思っていたのに、結局最終日に慌てて2回連続でしか観れなかった(わりと十分では?)
アンデルセンの『赤い靴』と言うより、1948年の名作映画「赤い靴」をベースにしているようなので、先に映画を観ておかなかったことをちょっぴり後悔したのでこれから観ます。

超絶要約すると主人公が恋とキャリアのどちらを取るかで苦悩するお話なんだけど、つまり恋=ドミニク・ノース、キャリア=アダム・クーパーの究極の選択ってことでしょ?この2人ってマシュボの劇団のそれぞれの世代を代表するダンサーじゃん!あまりに贅沢過ぎてどっちも選べない!

前半は主人公がプリマドンナとして抜擢され劇中劇「赤い靴」を踊るまで、後半は劇中劇と主人公の状況がリンクして気が狂ってしまうという内容で、表裏一体の構成が巧妙すぎてたまりませんでした。マシュボの作品ではやっぱり「白鳥の湖」が1番好きだけど、構成と舞台装置は「赤い靴」がダントツ高評価です。

大きな門のようなステージカーテンのセットをくるくる回転させることで劇中劇の舞台とその舞台裏を表現しているんだけど、劇中劇の観客の拍手と実際の劇場の観客の拍手が同化して、段々舞台と劇場の境界線が曖昧になっていくという演出もお見事でした。
劇中劇と主人公の状況がリンクしていく後半にもこのカーテンが巧みに使われていて、いつの間にか劇中劇、舞台、実際の劇場、全ての境界線があいまいになっていく奇妙な没入感。

ダンスやキャリアへの執着の象徴になっている赤い靴を使って主人公を誘惑する支配人も、まるで赤い靴の化身と言えるような存在。劇中劇では支配人をバレエマスターが演じていて「この役やりたいな〜」とレルモントフにおねだりする仕草がかわいかったし、すさまじい顔芸とヒップを強調し過ぎなダンスが印象的なキャラでした。

そんなバレマス演じる劇中劇の支配人とアダム・クーパー演じる現実の支配人・レルモントフが同じ振付を踊り、劇中劇と現実が主人公の苦悩の中で入れ替わってしまうシーンは鳥肌もの。

バレマスの癖のあるダンスと、アダム・クーパーの凛としたダンスの対比。ほぼ客演みたいな感じなのでアダムのダンスシーンはそれほど多くないんだけど、手足が長くて姿勢が良くてすごく素敵でとにかく見惚れてしまいました。アダム・クーパーってホント見た目も昔から変わらない気がする。
対するドミニク・ノースはいつ見ても赤ちゃんみたいな顔してるなって思っていたのに、最近自分より年上と知って衝撃でした。ドミニクもつくづく感情表現お化けなので、作曲シーンや指揮シーンの鬼気迫るダンスが素晴らしかった。

「シンデレラ」でエンジェルを演じていたリアム・ムーアが、劇中劇のプリンシパル役として主人公と並ぶくらいダンスシーンが多かったのも嬉しかったです。常に体表の3割くらいしか隠してないギリギリの衣装で生脚&生下尻を振りまいていたのに、いきなり隙のないロングのカソック姿で現れた時は度肝を抜かれました。やっぱりマシュボの性癖=私の性癖。性癖の双子って言ってもいいですか?(は)

意外と重めな本筋の息抜き要素なのか、水着deバカンスのシーンや場末の劇場の赤パンチラダンサーズも面白かった。セクハラ腹話術者や瓶からお酒を直飲みしてたレルモントフの秘書などなど、端役にすら個性が溢れているところもマシュボ作品の魅力。
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