ブタブタ

三月のライオン デジタル・リマスター版のブタブタのレビュー・感想・評価

5.0
初めて見たのは確か最初の再上映?でK,sシネマが紀伊国屋書店の近くにあった時だと思う。
前を通りかかってポスターを見て衝動的に内容も分からないまま見た。

ハルオ役の趙方豪は41歳の若さで亡くなっている。
老夫婦役のお二人も既に鬼籍に。
この映画の撮影と公開は時代が昭和から平成に代わる時でちょうどバブルが終わる頃にも重なっている。
90年代の街並みは全てロケでスタジオ録音等も一切せずその場で録音或いはロケ地と同じ(廃墟や解体現場等)場所を探してわざわざ撮ったとか。
だから全編に渡って8ミリフィルムのドキュメンタリーを見ている様な、記憶喪失の兄(ハルオ)を自分が恋人だと偽り近親相姦へと導く妹(アイス)というフィクショナルな題材を描いているにも関わらず禁断の愛とか、過剰にドラマチックにも悲劇にもならず人も出来事も全てが淡々としている。

アイスとハルオが住む事になる線路の上に直接鉄筋コンクリートのマンション住居がある特徴的な建築物。
見た事あると思ったら当時自分が毎日の様に自転車で通ってた場所だった。
高島平にある都営メトロの車両検車場の上に建つ「都営西台アパート」でアイスを案内した手配師が「あと二ヶ月で取り壊し」と言ってたけど現実には今も建ってます。

正確にはバブルが弾ける直前の東京か。
ハルオは解体現場でバイトするけど繰り返し登場する建物の解体と廃墟、線路の高架下ならぬ高架上に建つほぼ無人の巨大団地、それと新宿の夜の風景が渾然として退廃的な、世紀末の、一種架空の世界の「東京」を作りだしてる。

冒頭の写真とテロップでストーリーをほぼ全部説明して後は殆どセリフもない。
ハルオは徐々に記憶を取り戻していくけど、その過程も説明的なものは一切なく記憶がよみがえる決定的な瞬間も流れ落ちる血や解体現場の鏡に映った自分の裸の幻、同時に血を流すアイスって全てが映像のみで描いている。

『三月のライオン』はフランス映画的…と感じるのですが、この少し前に見たレオス・カラックス『汚れた血』と何かイメージが重なる。
近親相姦と愛のないSEXで伝染する奇病。
彗星が接近し異常気象のパリと帝が死にバブルという浮かれた世の中が終わる東京。
バイクに乗る二人、アレックスが死に向かっていくのとは逆にハルオは許されぬ「生」を生み出す。
両方とも「世紀末の恋人達」の映画ながら悲劇に終わる『汚れた血』とどう考えても悲劇で終わる筈なのにハッピーエンド(だと思う)で終わってしまう本作。
二人が流す血は汚れているのに同時に美しい血。

矢崎仁司監督は今やもうすっかりメジャー映画監督ですがやっぱり『三月のライオン』が最高傑作だと思う。
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