いの

戦場のメリークリスマス 4K 修復版のいののレビュー・感想・評価

5.0
男性しか出ていないのに(男性しか出ていないからこそなのか)、エロティシズムの匂いが充満している。そうか、エロと死とは分かちがたく結びついているものなんだと、あらためてアタシは強く思う。幻想的、なのにこれこそがリアリティだと感じる。男達はみな、過去に囚われている。過去と共に、生きているのかそれとも既に死んでいるのか、その境界線はきわめて曖昧。二・二六で散る機会を逸したヨノイ大尉の希求。抑えきれない感情と陶酔と動揺を「行」で抑制しようと迷走するヨノイ大尉。ハラ軍曹はきわめて冷静にモノゴトを自覚しているようにも思えてきた。ローレンスの身の処し方も、もう腹のどこかで覚悟を決めているような。そしてなんといってもデヴィッド・ボウイのカリスマ性。髭剃りパントマイムの場面から、いや、登場した瞬間から、もうとんでもない魔性に吸い寄せられてしまう。ずっとずっと永遠にうっとりと観ていたい気持ちになる。それはヨノイじゃなくたってそうなんだ。


「(日本人は)個人では何もできないが、 集団になると発狂する」この言葉に、うっっっっ!ってなる。戦時中にだけ当てはまる言葉なんかじゃないから。戦時中には、それが見えやすいかたちとなって表出しているだけで。


デヴィッド・ボウイの美しさを永遠に閉じ込めたような。永遠の美しさには、生きとし生ける者も、既にこの世にいない者も、集まってくる。イギリスの庭から漂う花や蜜の甘い香りと弟くんの美しい歌声と、白い蛾。お釈迦様の涅槃は、寝そべっているようなポーズだけれど、彼は立ったまま、顔を横に少し傾けてそれを行う。東洋の涅槃と西洋のなにかとの融合にも思える。


そこから、たけしの超ドアップの笑顔まで、気持ちが静かに激しく揺さぶられ、エンディングで鳥肌がたちまくって、言葉にはできない感情に言葉などつけられようはずもなく、時が経過したあとでも、デヴィッド・ボウイのさいごと、あの曲とが、あたまのなかをぐるぐるしている。あんなさいごであったらよいと、いざなわれている。
いの

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