Yoshishun

かぐや様は告らせたい ~天才たちの恋愛頭脳戦~ ファイナルのYoshishunのレビュー・感想・評価

2.8
“ストーリーは見易く、演出は寒く”

TVシリーズ第3期「ウルトラロマンティック」を観たあとだと、どうしても見劣りしてしまう実写版かぐや完結編。
河合勇人監督は『ニセコイ』のような寒いテロップ演出を極めつつあるものの、前作よりかはマシ、ただやっぱり一本の映画としては凡作である。

本作は原作前半の2大長編「体育祭編」「文化祭編」をメインとし、それに連なるサイドストーリー(合コン等)で構成されている。前作のような短編の寄せ集めは行わず、各ストーリーの繋がりを持たせた構成にしたことで、前作より実写版としての筋は通るようなものに仕上がっている。加えて、前作では影のような存在だった石上にスポットを当て、彼が中学時代に起こした暴力事件の真相を突き止める一幕は原作でも屈指の名場面といえる。原作・アニメでは家に引き籠もっていた石上だが、実写版では公園で黄昏ており、彼のもとに駆けつけるのが白銀と四宮というアレンジが施されている。このアレンジが少なからずかぐやが白銀に惚れる要素として機能しており、後半のかぐやの涙にも繋がっていく。この些細なアレンジを楽しむのも実写版の醍醐味といえるだろう。

ただ改悪されている部分もあり、石上がかつて助けようとした同級生に罵声を浴びせるカットは丸々無くなっており、生徒会メンバーの内輪的な感動シーンに成り下がっている。また、石上が子安つばめに惚れる瞬間もハッキリと描かれてないので、急にアプローチし始める石上には違和感しかなかった。

また、前作に続き、佐藤二朗の使い方は完全に間違っている。福田雄一のようなギャグ要員として登場させ、挙句の果てにはナレーションでも全力でふざけさせる。更にはいくらコメディとはいえ、前作の怪我人を叩くような突然の暴力シーンもあり、本シリーズにおける佐藤二朗は完全に作品にとってノイズになっていた。

そして、極めつけは、撮影した素材をそのまま垂れ流すと地獄絵図になるだろうからという配慮で、散々使い回されるテロップ演出。かぐやと白銀の心理戦をテロップ多めで説明していた前作からは成長しておらず、キャラクターの感情をイチイチ吹き出し付で教えてくれるという親切設計を見せてくれる。これがかなりしつこく、画面的にかなりウザったい状況を生み出している。漫画のような質感を出すためとはいえ、実写の世界に持ち込まれると途端に安っぽくなるのは残念すぎる。

他にも文句はある。本作から登場の伊井野ミコは、藤原書記のバディとしての立ち位置以外はキャラとしてあまりに弱すぎる。本来は生徒会選挙で白銀との熱い演説合戦を繰り広げるはずが、前作でかぐやに取って代わられたために、本作での扱いは完全に無駄遣いといえる。むしろ登場しなくても映画として成り立ってしまうのだが……

結論としては、ストーリーは2大長編を軸にしているため、とっ散らかっている印象は受けない。前作から登場しているキャラクター、特に石上は原作やアニメと変わらぬ成長っぷりに感動できる。しかし、福田監督を意識しすぎたような寒い演出、原作から改悪しすぎた新キャラクターの扱い等擁護できない要素も多々あり、せっかく前作以上の作品ながらも鑑賞後の満足感はイマイチ。やっぱりかぐや様は実写映画よりもドラマシリーズで製作するのが正解だったように思う。
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