Dick

ボストン市庁舎のDickのレビュー・感想・評価

ボストン市庁舎(2020年製作の映画)
5.0
1.はじめに:フレデリック・ワイズマン監督との相性

❶フレデリック・ワイズマン監督の作品に対面したのは、2004年8月。当時赴任地の滋賀県甲賀郡にあった「碧水ホール」の企画「フレデリック・ワイズマン映画祭2004」で、4日間に渡り上映された全11作を観たのが最初だった。(下記①~⑪)。
★何れも粒そろいの秀作で、他に例を見ないユニークな映像表現に感銘を受けた。そして同時に、それまで知らなかった地方のイベントホールで、このような素晴らしい企画上映が行われていて、そのチャンスに巡り合えた幸運に感謝した。
★マイベストのトップは6時間(358分)の大長編『臨死(Doc) (1989)』(下記⑨)。名古屋では一般公開なし。

❷ちなみにワイズマンのスタイルとは(出典:岩波書店「全貌フレデリック・ワイズマン」):
①「16ミリ同時録音キャメラ(注:2000年中盤あたりからHDを使用するようになった)で,隠し撮りや無許可撮影はせずに被写体の承諾を得ながら,4週間から12週間かけて撮影する。
②撮影クルーは,キャメラマンと録音技師,アシスタントの3人編成で,監督自身が録音を担当しながら,指示を出すスタイルを基本とする。
③撮影されたフィルムは,およそ1年かけて編集され,作品となる。
④エピソードの間には、しばしば市街の風景が挿入され、それが映画にリズムを生み出すと同時に、文化の多様性を示している。
⑤作品は,1971年に設立した自己のプロダクションであるジポラ・フィルムを通じて配給され,同時に,アメリカの公共放送のほか,フランスやイギリスなどのテレビで放映されるのをつねとする。
⑥ワイズマン作品には,ナレーションや字幕とテロップ,さらに音楽が加えられない.インタビューもない。
⑦この「4無い主義」と言われる方法意識によって,観客は,映像と音声とが,スクリーン上で生々しくぶつかりあうのを目撃することになる。

❸その後、名古屋で一般公開されたワイズマンの新作は、全てをリアルタイムで観ているが、相性は「極めて良好」である。
(下記⑫~⑰)。

①霊長類(Doc)(1974)105分/80点
②肉(Doc)(1976)113分/95点
③シナイ半島監視団(Doc)(1978)127分/90点
④多重障害(Doc)(1986)126分/70点
⑤聴覚障害(Doc) (1986) 164分/100点
⑥適応と仕事(Doc)(1986)120分/70点
⑦ミサイル(Doc)(1987)115分/80点
⑧視覚障害(Doc) (1986) 132分/95点
⑨臨死(Doc) (1989) 358分(6時間の大長編)/100点
⑩DV 2(Doc)(2002)160分/80点
⑪最後の手紙(2002)62分/80点
⑫パリ・オペラ座のすべて(Doc) (2009) 160分/80点
⑬クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち(Doc)(2011)134分/95点
⑭ナショナル・ギャラリー 英国の至宝(Doc)(2014)181分/100点
⑮ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ(Doc)(2015)189分/100点
⑯ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス(Doc)(2016)205分/95点
⑰ボストン市庁舎(Doc)(2020)274分/100点(本作)


2.マイ・レビュー:ネタバレなし

❶相性:上。
★現時点で今年の外国映画のマイベスト。
★アメリカの良心ここにあり。
★民主主義の原点を実例で示している。

➋時代と舞台:時代はトランプ政権下の2018年秋から2019年冬。フレデリック・ワイズマンの生まれ故郷であるマサチューセッツ州ボストンの市役所を舞台に、「市民のための市役所」を目指して奮闘するマーティ・ウォルシュ市長をトップとするスタッフと市民の実情を描く。

❸考察:
①最初に、1630年に設立したアメリカで最も歴史の古い都市の1つであるボストンの基本データが提示される。
人口71万人。市役所の職員1万8千人。人種構成:白人53%、黒人25%、アジア系10%、その他12%。
(アメリカ全体の人種構成:白人60%、ヒスパニック18%、黒人14%、アジア系6%、その他2%)
②描かれるのは:
「市民の電話に対応するスタッフ」、「市長とボストン警察との会議」、「市の予算に関するスタッフ会議」、「市役所での同性カップルの結婚式」、「ワールドシリーズ優勝に輝いたレッドソックスの祝賀パレードに関する市長、長官、警察署長の会見」、「高齢者支援会議」、「スタッフによる建設現場への立ち入り調査」、「若者のホームレス対策」、「看護師の過重労働対策」、「退役軍人と戦没者の日」、「フードバンク」、「ベトナム系アメリカ人コミセン」、「障碍者福祉工場」、「交通管理センター」、「教育委員会」、「大麻ショップ出店申請」、「全米黒人地位向上協会会長と市長との会見」、「中国系住民の正月祭り」等々の市役所の仕事の実態。
③予算会議のエピソードでは、メンバーは白人、黒人、ヒスパニック、アジア系の男女から成り、夫々が、現状問題点と、具体的な対策を説明する。それを女性の議長が集約して結論にまとめていく。
★これこそ民主主義の基本であり、自分も参加して発言したいと思わせる自由な雰囲気がある。
④多様な人種・文化が共存するボストンを率いるのは、アイルランド移民のルーツを持つ労働者階級出身のマーティン・ウォルシュ市長(1967年ボストン生れ)。彼が2019年の施政方針演説で市民に語りかけている。
「ワシントンの(悪い)影響をボストンでも感じています。ボストンから国を変えましょう。違いは人を分断しません。力を合わせれば何でも出来る。それが民主主義、私たちの市政の基本です。」
★ウォルシュ市長は、バイデン大統領の指名により、今年(2021年)3月付けでアメリカ合衆国労働長官に就任、後任には今月(11月)に行われた市長選で、女性の台湾系2世の市議ミシェル・ウー氏(36)が初当選している。女性と非白人の市長はボストン史上初。
⑤本作は、ワイズマン作品では、『臨死 (1989)』 の358分(6時間)に次ぐ、274分(4時間半)の長編だが、途中眠気なしに、終始緊張感を絶やさずに観ることが出来た。

❹まとめ
①本作を観た人は、「市民に寄り添う市民のための行政」とはどうあるべきかを知り学ぶことが出来たと思う。民主主義が機能している頼もしい実態が描かれているからだ。
②本作の最後には、「ボストン市庁舎はトランプが体現するものの対極にあります。」というワイズマン監督の言葉が添えられている。
③トランプ大統領は、アメリカの民主主義をぶち壊した。しかし、本作で描かれたように、ボストンのウォルシュ市長以下のスタッフと市民のような人々がいる限り、アメリカは安泰である。そう確信した。
★88歳のフレデリック・ワイズマン監督の狙いは、見事に的中したのである。
★ワイズマン監督がますます好きになった。有難う!ワイズマン監督。