ねぎおSTOPWAR

茲山魚譜 チャサンオボのねぎおSTOPWARのレビュー・感想・評価

茲山魚譜 チャサンオボ(2019年製作の映画)
5.0
なんとも味わい深い映画でした。
もちろん名優ソル・ギョングさんがいてこそ成立したのでしょうけどね、でも名監督イ・ジュニクさんが<埋もれていた歴史>を掘り起こし、見事な脚本にしたことが一番でしょうね。

実際この映画にも登場する”弟”ヤギョン(リュ・スンリョン)はとても有名な学者さん。ドラマ「イ・サン」にもホン・グギョンの後その仕事を引き継ぐ人として登場します。
・・しかし、ヤギョンと同じように正祖(チョンジョ=イ・サンのことです)亡き後粛清され、島流しにあった兄ヤクチョンは実在し、昌大(ジョンデ)も実在し、タイトルにもなった「茲山魚譜(チャサンオボ)」(海洋生物学書)を書き残したのも事実。
その出会いや性格などは脚色されたものとしても、監督の仕事は見事だと思います。

上にも少し触れましたが、チョン・ジニョンが冒頭演じた王様正祖こそドラマ「イ・サン」あるいは同じイ・ジュニク監督の映画「王の運命 歴史を変えた八日間」(これは爺ちゃんと父ちゃんの話がメインですが・・)などにも多く描かれる第22代朝鮮国王。
彼の死後、彼の祖父であり先代王 英祖の嫁:貞純大妃が復権してまた悪政が始まるわけですが、幼い第23代王 純祖(スンジョ)を操る描写がありましたよね。

【わかりづらいかもしれないから流れを解説】
第21代王 英祖には、次の王にと考えるサドセジャ、息子がいました。
英祖は若い妻(何人目かの)をもらい、その妻は朱子学を是とする一派であり、自分たちの権力のため、とある罠をしかけ、英祖に息子サドセジャを殺させてしまいます。後にその事実を知りますが時すでに遅し・・そして孫にあたる正祖は賢明で、英祖の後を継ぎ、父親を罠にはめた継母の力を奪います。優秀な部下の中にキリスト教徒であるヤギョンもいました。(ヤクチョンもいました)しかし、若くして正祖は亡くなり、後妻=貞純大妃が復権して、朱子学に反するとしてキリスト教徒たちを追いやりました。
【ここまで】

・・・この時代の話だと思うと途端に近しい話に思えませんか?ww
そしてドラマ「イ・サン」にも弟ヤギョンしか登場しなかった事実。そこに隠された偉業をピックアップしてストーリーを作ったイ・ジュニクさん。

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「モノクロってこんなに美しいんだ・・」
観ればきっと思うはずです。
以下監督の言葉を引用。
『モノクロの長所は鮮明性だ。絢爛たるカラーを排除することで、物体や人物が持つ本質的な形態がよりはっきりと伝わる。鮮明なモノクロで朝鮮時代を覗いてみると、この時代の人物の物語をより近くに感じることができるのです』

日本であえてモノクロ映画「銃」を撮った武監督も言っていました。「モノクロは難しい」と。


島流しって言うとついつい獄門島みたいなことしか想像できませんが、当然ながら人間の暮らしがそこにはあるわけですよね。
貧しいながらも海の恵みがそこにはあり、主人公ヤクチュンの興味が向いたのもよくわかります。空には満天の星。月明かりに照らされる夜の海。

イ・ジュニク監督の映画の特徴であり共通点は、メインの横にいる人物を同じように鮮やかに描くことだそうです。
そもそも取り上げるのもそういう人物。そしてその人を描くにも周囲の人物の描写が非常に細かく豊か。

それはパートナーとなる昌大・・
後にヤクチュンの妻となるカゴ(イ・ジョンウン:「パラサイト」の最初の家政婦さん!)・・
昌大の妻となるボンレ(ミン・ドヒ)・・
島の役人別将(チョ・ウジン)・・
悪の象徴のように描かれますが昌大の父(キム・ウィソン)・・

全員ではもちろんありませんが、主要キャストは脇役にとどまらず観ている私たちの深い共感を呼び起こすキャラクターですよねー。

だから、単に当時の様子がわかるとか、差別区別が良くないとか、そういったことじゃなくて、人間が命をつなぐってどういうことなのかとか、根源的な生きる目的や喜び、悲しみといったものを思い出す映画なのかなって思います。
出演者のみなさんの演技はそれに足るものだったと感じています。

昌大役って、本当は予算不足のため新人をオーディションで選ぼうと思っていたそうです。それを、ソル・ギョングさんが以前「監視者たち」という映画で(実際共演シーンはなかったものの)一緒だったピョン・ヨハンさんを推薦したそうですね。本を読んでそのキャラクターだったりがピッタリだと感じたそうです。
その通り二人の関係性はとても面白かったです。演技合戦も見どころ満載でした。


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