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茲山魚譜 チャサンオボのbellevoileのレビュー・感想・評価

茲山魚譜 チャサンオボ(2019年製作の映画)
4.0
宗教弾圧で流刑になった学者ヤクチョンと、向学心に燃える若い漁師チャンデの交流から生まれた海洋生物学書「茲山魚譜」の物語。

年齢や身分を超える知識の交換を通し、学ぶことの奥深さと現実を知る残酷さを、意外なほどのユーモアを添えて人間と時代を描く。

信仰を捨てることなく最果ての島まで来たものの、学ぶ生きがいを失ったヤクチョンが島の素朴な人々と交流し、新鮮な魚介を口にするうちに元来の旺盛な好奇心から生気に満ちてゆく繊細な演技はさすがのソル・ギョング。

むしろ本作は若く貧しい島の漁師、チャンデの青春物語として秀逸だと思った。
身分が低く科挙も受けられない彼が、官職について国民に尽くしたいとの思いから勉学に励み、ヤクチョンとの交流から学び、遂にたどり着いた場所で目の当たりにしたもの。それは現代に生きる我々が日々直面する腐敗と大して変わらず、200年もの時を経ても豊かさと幻滅は地続きなのだと思うと感慨深い。

モノクロ&パートカラーの画面には映し出される情報がギュッと凝縮されており、同時に余白の豊かさを感じた。
時代劇という特性のせいか、カラーで描かれるより何故だか「今」との時の繋がりを感じる不思議な感覚に陥った。色がない分、光と闇のコントラストが生々しく美しい。

モノクロ、時代劇、なんならタイトルの発音も怪しい…けどスチルに惹かれて足を運んだ自分をほめたい。スルーしなくてよかったと心から思う素晴らしい映画でした。

意外にもソル・ギョングにとっては初の時代劇だったそう。「この魚は…!」と目をキラキラさせるソル・ギョングがまた味わい深い…。
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