カツマ

楽園の夜のカツマのレビュー・感想・評価

楽園の夜(2019年製作の映画)
3.8
修羅は地獄のように山積し、真の意味での阿修羅を生む。復讐に連なる連鎖、巻き込まれたら最後、組織の歯車は壊れたタイヤのように取り替えられる。もうどこへ行くにも闇しかない、平穏など、とうの昔に忘れ去った、はずなのに。楽園は優しく微笑む。刹那的な出会いでも、そこには守るべき者の姿があった。夜は深く、陽は沈む。波の音だけが二人の今を知っていた。

『The Witch/魔女』や『新しき世界』で知られる、パク・フンジョン監督の最新作がNetflix配信映画として登場。ヤクザの世界で生きる主人公が、復讐、逃走を経て、組織の闇へと呑み込まれていく、韓国産ノワール映画である。済州島の楽園風景を舞台に繰り広げられる血みどろの惨劇。それは韓国映画らしいバイオレンスを誘発させ、どうしようもなく袋小路を予感させる。その悲劇に終わりはあるのか。今、仁義なき世界の扉は開かれる。

〜あらすじ〜

暴力団の組合員のテグはボスのヤン社長の片腕として、組織の内外にその名を轟かせる凄腕。組織の実力者たちが、ヤン社長からテグを引き抜こうとするくらいには、彼の影響力は絶大だった。
いつもは冷静沈着なテグ。だが、姉と溺愛する姪っ子の前ではコワモテも和らぎ、その時だけは優しい叔父さんの顔へと戻ることができた。
いつものように姉と姪っ子との束の間の時間に平穏を求めるテグ。そんな日々を組織の毒牙は許さず、テグの大切な二人は何者かに殺されてしまう。
犯人はほぼ間違いなく、ヤン社長の対抗勢力でもあるト会長。テグはヤン社長の後押しを受け、ト会長とその部下たちを殲滅。その後、済州島へと逃亡するも、残されたヤン社長と部下たちは組織の抗争に深く切り込んでしまっていて・・。

〜見どころと感想〜

これぞ韓国映画、という血みどろのバイオレンスが炸裂する未曾有の復讐劇である。と言っても、ただの復讐劇一辺倒の話ではなく、真実は霧中へと放り込まれたまま、その対象だけが変わっていく。実際、展開としては読みやすかった向きもあったが、着地点はやはり異様。守る者、守られる者、それは単純な役割ではなくて、強さの値もまた、見た目や肩書きだけでは分からない。パク・フンジョン監督は守られるだけの女性は描かない。今作でもそのスタイルが貫かれていたのは間違いなかった。

主演のテグを演じたのはオム・テグ。彼の主演作はまだ多くはないので、ここまで存在感のある役者さんだとは、意外な発見でもあった。ヤクザとしての顔、家族としての顔を使い分け、それを違和感なく切り替える描写が特に光っていたと思う。共演のチョン・ヨビンは、人気ドラマ『ヴィンチェンツォ』で弁護士役を演じており、今後が楽しみな女優である。他にもヤクザの実力者の役として、懐かしの『風林高』に出演していたチャ・スンウォンの登場も熱かった。

通常、ノワール映画にはギャング、抗争、復讐といった要素が付き纏う。この映画はそれらを全て同居させながら、全てを失った男に平穏を与えんとまとわりつく。死はすぐそこにある、それでもただで死ぬわけにはいかない。どんなに非情な運命が待とうとも、楽園の海は美しく瞬いては、その末路を淡々と眺め続けるのであった。

〜あとがき〜

Netflix配信の新作ということで鑑賞しましたが、韓国映画のクオリティは総じて高いため、その分、ハードルも上がってきています。今作は最後まで息を付かせぬ展開が続き、アクションシーンも迫力満点。間違いなく面白い作品です。
しかし、同じアジア圏のノワール映画としては、昨年の『鵞鳥湖の夜』があまりにも良かったので、それと比べてしまう向きはありましたね。

胸糞にも取れる悲劇的な展開、容赦ないバイオレンス。これらは韓国映画のブランドとなりつつあって、観る前から期待してしまうくらいには、先読みしやすくなっています。『The Witch/魔女』くらい振り切ってくれると、忘れられないくらいのインパクトが残ったりするのですが・・。
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