◆あらすじ◆
1940年代、人気の黒人歌手のビリー・ホリデイが歌う「奇妙な果実」という歌が黒人差別の実態を訴えるものになっていて、政府は彼女を取り締まろうと考えていた。連邦麻薬局長官のアンスリンガーは部下の黒人捜査官のジミー・フレッチャーをビリーの下へ送り込み、囮捜査で彼女を麻薬使用で逮捕する。しかし、ビリーの人気は衰えることなく、彼女の魅力にジミーも心酔し始める。
◆感想◆
1940年代のアメリカ、公民権運動が起こる中で、政府が人気歌手のビリー・ホリデイを危険視して彼女を取り締まろうとする中で、ビリーが「奇妙な果実」を歌い続けて人種を越えて人気になるとともに、彼女の苛烈で破滅的な人生を描いた作品となっており、ビリー・ホリデイの強さと弱さを併せ持った生き様に魅力を感じました。
ビリー・ホリデイ(アンドラ・デイ)は人気のジャズ・シンガーでしたが、その裏では恋人からの暴力などで酒や麻薬なしには生きられないようになっており、ステージでの強さと裏腹にステージ外での乱れっぷりはお世辞にも真っ当な生き方には見えませんでした。
本作ではビリーの歌う「奇妙な果実」が現在でも黒人へのリンチが続いていることを示す歌と見なされ、公民権運動に気を病む政府に危険視されます。麻薬局長官のアンスリンガー(ギャレット・ヘドランド)はビリーを取り締まることで政府での自分の評価を上げようとしており、麻薬を取り締まることは二の次だったように思います。その後、異常なまでにアンスリンガーはビリーの取り締まりに執着しており、それはアンスリンガーが自分の思い通りにならないビリーに対する怒りだったと思います。
アンスリンガーに利用されてビリーの下へ囮に入る黒人捜査官のジミー・フレッチャー(トレヴァンテ・ローズ)はビリーを逮捕するに至りますが、ジミーはそれを後悔してビリーを支援するように変わります。ジミーは元々、黒人の権利の向上を信条としており、ビリーを付き合うことでそれはアンスリンガーに与することでなく、ビリーを助けることだと理解したのだと思います。
ビリー・ホリデイは「奇妙な果実」という曲のために政府ににらまれ、労働許可証を剝奪されるなどの憂き目に遭うのですが、それでも彼女はこの歌を止めなかったところに黒人差別・リンチ虐殺への強い思いを感じました。
一方、ビリーの私生活は金、男、麻薬、酒と乱れたものになっていて、かなり破滅的な生き方をしていました。そこには幼い頃の過酷な暮らしがあって、それを忘れるためには麻薬や酒に頼らざるを得なかったことが描かれます。そこには男の私には分かり得ない苦しみがあったのだと思います。
最後まで興味深く観ることができました。本作のみでビリー・ホリデイという人物を理解することはできませんが、アメリカでの黒人差別の根深さを感じさせる作品で観て良かったと思います。
鑑賞日:2024年10月8日
鑑賞方法:CS ザ・シネマ
(録画日:2023年12月25日)