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戦慄のリンクのbackpackerのレビュー・感想・評価

戦慄のリンク(2020年製作の映画)
2.0
「忘れるな、勉強しろよ。ネットに夢中になるな」

【カリテファンタスティックシネマコレクション2022オープニング作品】
「変なトラブルに巻き込まれるから、ネットのやり過ぎは良くないゾ!当局のお兄さんたちとの約束ダ!!」という、押し付けがましい啓蒙が恐ろしい、中国共産党式文化芸術の型にハマらないよう努力した、サスペンス・スリラー?映画。

監督は『ほんとうにあった怖い話』や『リング0バースデー』で知られる鶴田法男。
と言いつつ、私はこの方の作品を一つも触れていないため、どのような作家性をお持ちなのか等、全く把握しておりません。悪しからず。

監督による舞台挨拶での発言曰く、Jホラーを求められて中国にて製作したものの、中国共産党による規制により思うようにいかなかった(「中国では幽霊の存在を肯定してはいけない」「最後は警察当局が解決せねばならない」といった制約があった)らしいです。
それもあってか、「ともかく面白いものを作ろうと思った。"ホラー"ではなく"サスペンス・スリラー"として見てもらいたい」とおっしゃっていましたが、う〜ん、とは言えねぇ……。
ホラーだったら文句なく「面白くない」と断言してましたが、サスペンス・スリラーだとしても、あまり上等ではないかなぁ…………。

色々と言いたいことは、自分でも煮詰め切れていないため、箇条書きにしておきます。
・あまりにも先読みできる展開
・恐怖演出が音と光に頼り過ぎ
・被害者達についての情報開示が少ないのにバタバタ死ぬ(所謂「感情移入できてない登場人物がこれ見よがしに死んで白ける」問題)
・役者の演技がイマイチ(中国式演技と日本式撮影のミスマッチによるものが大きいとのこと)
・サブジャンルが復讐劇の流れで進んでいたのに、犯行動機が自己憐憫と贖罪で、最後には泣きを見せられ呆然(後悔→涙の懺悔シーンなんて、見せられても困る)
・「これは催眠だ!」と理解した上で展開されると、その間起きてる事が全て無意味な茶番劇&一人相撲化する

細かいこと言えばもっとツッコミどころがあるんですが、ひとまずここまで。


そもそも、物語の一幕目(主人公が、死んだ従姉のPCからネット小説を読んだ結果、幽霊の幻覚を見るようになる)の終わりあたりから、「これホラーじゃない」と確信を抱いたのが運の尽き。
その後、「サイコサスペンスとして進めばまだやりようがある……」と期待して見ていくと、細部が詰められていないガバガバ洗脳催眠設定で押し通ることがわかり、正直どうでもいい人物相関謎解きも進行。
挙句の果てには、「あまりにもわかりやすい犯人候補だけど、まさかねぇ……って、やっぱりお前かーい!」という予感的中な展開に。アスファルトでガッチリと舗装された伏線の道を、丁寧に雑巾掛けして進むような新設設計。

唯一良かったのは、「ネット上のリレー小説の登場人物を自分達に重ねたところ、実世界で自認する性とは異なるキャラクター(女→男)の執筆を担当した人物が、作中の恋人(女→女のままで執筆)に本当に恋をしたという構図」です。
特殊環境下で発生した百合という設定は、古くは文通相手やアマチュア無線、現代ではネトゲ等で応用効かせつつ描けるなと思いました。まあ、本作では、それはノンケへの片思いとして、悲しい結末になったわけですが。
中国における同性愛者、所謂"同志"コミュニティについては、不勉強でよくわからないため、本作がどの程度切り込んだ物だったのか、判断できないのが残念です。


そもそも、第一印象が「つまらんなぁ」だった時点で、余程唸らされるものがない限り、厳しい評価になるのは致し方ないところです。
あくまで、自分には合っていない作品だったと言うだけですが、今後のロードショー公開でどんな評価を受けるのか。Jホラーや中国映画市場の事情に精通した方が下す評価を聞いてみたいところです。
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