平野レミゼラブル

クー!キン・ザ・ザの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

クー!キン・ザ・ザ(2013年製作の映画)
3.6
【クー!アニメーションで蘇るシュールで迂遠な冒険譚】
住人の言語は「クー!(挨拶とその他多くの意味を持つ)」か「キュー!(罵倒語)」のみにも関わらず、脳内を読み取って人語を習得する技術は確立されており、何故かマッチが最重要物資で大きな価値を持つという不思議な惑星に飛ばされてしまった2人の地球人の、奇妙な冒険を描いたソ連時代のカルト映画がアニメとなって蘇る!監督は旧キン・ザ・ザから引き続いてのゲオルギー・ダネリアで、彼はこのリメイク版アニメを遺して亡くなってしまいました。

この間観た、邦ストップモーションアニメ映画の怪作『JUNK HEAD』が最も影響を受けた映画こそ旧版『不思議惑星キン・ザ・ザ』であり、自分も実際『JUNK HEAD』から『キン・ザ・ザ』成分を感じ取りまくって懐かしくなっていたため、今回のゲオルギー・ダネリヤ命日追悼企画は僥倖でした。
本国公開は2013年、ダネリヤが亡くなったのが2019年のため、どっちにしても相当に間が空いているのは結構な謎でしたが、まあこちらとしては間が良かったんで結果オーライです。
一般公開は来月からで、そん頃には旧キン・ザ・ザも復刻公開だそうですよ。


舞台がソ連から現代ロシア(と言っても前述通り2013年時点なので携帯がガラケーだったりする)に、主人公がマシコフおじさんとヴァイオリン弾きの大学生ゲデヴァンという偶然出会わせた2人ではなく、世界的チェリストのマシコフとDJ志望の甥っ子トーリクになっていたりの変更点はありますが、それ以外の全体的な流れは大体一緒だったと思います。
……断定調でないのは、旧作の流れをほぼ忘れていたからで、リメイク版を観ながら「そうだ、そうだ、こういう話だった!」と記憶を呼び起こしていましたね。3年前に観たばかりなんだけどなァ……話の筋がシュールすぎてよく覚えてられなかったんだろうな。

ただ、中盤で唐突に用語解説辞典が挟まるところはよく覚えていて、リメイク版でもその部分は据え置きだったのは笑った。そこ替えないんだ!!
旧作みたいに突然ブルーバック背景にならなかったんで、こちらのが自然に挿し込んでいたと思いますよ。『JUNK HEAD』も独特の用語が多くて中盤混乱したから、キン・ザ・ザリスペクト精神発揮してこの用語辞典ブッ込んで欲しかったなァ。


アニメーションのレベルは高く、3Dなんだか手書きなんだかわからない程に違和感なく溶け込み、奥行きのある作画が美麗。どこかガラクタじみてチープだった宇宙船や未知の機械も造形はそのままにしっかり描き込んでいたし、後半の飛行場のスチームパンクめいた背景もワクワクさせてくれます。
旧版では人間が演じていた異星人も、アニメだと頭身や造形に動きまで自由自在に作り込めるので、異星人の生態が生々しくなってて良かったですね。特に異星人の長であるPJ様が、旧版ではただのおっさんだったのに、アニメ版だと愛嬌たっぷりの可愛らしい存在になっていてトキメキました。

また、旧版が135分でやや冗長な面があったのに対し、アニメ版は97分でコンパクトに引き締めてテンポも良くなっています。
ただ、その点に関して僕はちょっと否定的な部分がありまして、どっちかというと冗長だった旧版の方が好きだったんですよね。『キン・ザ・ザ』の魅力は地球人からしたら不条理極まりない文化を強いられ続けたり、こすズルくて割とムカつくことが多い住人とのすったもんだを繰り返しながらも、何故か徐々に心地好くなっていくゆるさにありましたから。
確かに旧版は全体的に間延びしていて、話運びも超迂遠ではありましたが、こうのんびりと不思議な映像体験に酔いしれるという意味では、あの冗長さこそ丁度良い具合でした。

そういう意味では変な話ですが、美麗になってしまった作画にもちょっと物足りなさを感じてしまう。綺麗な画はそれはもう魅力的だし、本作随一の評価点ではあるのですが、同時に旧版のあのガラクタを組み合わせて作ったようなチープな造形を懐かしみ、後ろ髪を引かれる思いってのも生まれてしまうのです。
これは『JUNK HEAD』でハンドメイド故の狂気の凄まじさに当てられたからってのも大きいかもしれないですね。アニメーションだって相当の労力が費やされるわけですが、実際に質量を伴ったモノがあるかどうかって差は大きいように感じるのですよ。

旧版ではソ連の社会主義に対するシニカルな批判も織り交ぜられていましたが、ロシアとなった現代版ではその部分も当然消失。代わりに現代社会を風刺する部分が挿し込まれているのかな?とも思いましたが、そういう部分はあまり無かったように思います。
今じゃあまり見なくなったマッチ(カツェ)が、変わらず最高級品として扱われている辺り、そんなにアップデートは心掛けてない印象があります。まあ、マッチに関しては下手に変えられても困るところではあるんですけど。
あと、地球人2人の関係もラストの「君の名は!」展開にじんわり感動する部分があったため、そこも旧版のが好きでしたね。

という感じで、骨子はそのままに映像面は真新しくはなったけれども、それでも僕はチープな旧版のが好みって結論にはなってしまいました。まあ、これは旧版を懐かしみながら観たって影響もデカいんですが……
ただ、少なくとも、今『キン・ザ・ザ』に入門するならばこちらから入るのも十分アリ!というか間口は間違いなくこちらのが広いので、『JUNK HEAD』観て世界観にハマった人なんかは、アニメ版の観賞を推奨します。
僕は来月は旧版『キン・ザ・ザ』をのんびり劇場で堪能しようかな……


クー!!