松井の天井直撃ホームラン

アメリカン・ユートピアの松井の天井直撃ホームランのレビュー・感想・評価

アメリカン・ユートピア(2020年製作の映画)
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☆☆☆☆★ (1回目)

☆☆☆☆★★(2回目)

☆☆☆☆★★(3回目)


エンドクレジット前で〝 放心状態 〟になってしまった《あの若い青年》は自分の姿でもある。



2日連続でライブに行って来ました。
※ 更に回数を増やしております(苦笑)

ただ、観ている間の興奮は物凄いのですが。観終わったその瞬間から、、、

「嗚呼〜終わっちゃったよ〜」

…と、『アメリカン・ユートピア』ロスが速攻で起きてしまうって言う(-_-;)








3月の半ばから約6週間近くもの間、持病の発症から寝込み。やっと歩ける様になり2日間で4本の映画を観てレビューしたものの、翌日からまたもや症状が悪化。更に3週間あまりもの間、寝込む羽目に陥ってしまった💦

今はなんとか症状も回復し、仕事へも復帰したものの。緊急事態宣言が出ている背景も考慮すると、まだまだ映画館へは行けない状況は続いている。
第一に、都内の映画館は自粛が続いているのもある。
多少の無理をして、神奈川や千葉の映画館へ行けば観れない事はない。都内の映画館と比べたならば、混雑事情はそれ程の密にはならないし。そもそも、映画館と言う空間は。設計上に於いては、しっかりとした空調機能が義務付けられているのだけど、、、

…等とダラダラと書き込んでいるのは、後々に読み直しながら「嗚呼!あの時にはあんな事やこんな事が有ったんだよなあ〜!」…とゆう、記録として残しておきたい…との想いが強い。
自分の中で映画本編の記憶は。どの劇場で観て、その時に食べたモノの味の記憶、その当時に何が有ったか…は大事なのだ。

そんな今、映画鑑賞が叶わない日々の中、Filmarksで多くの人のレビューを観ていたら、何となく聞き覚えのあるタイトルに出くわす。

ん?

おおおおおおおおおおおおおおおおおお〜〜〜

「マジか〜!バーンのライブ映像!」

こ、こ、こ、こ、これだけは何が何でも観に行かなければ〜!


思い返せば、今はもう無くなった渋谷の地下に有った映画館。
《ぴあ》に応募して当たった、その映画館でしか使えない招待券には特に思い入れも無く。

「せっかくのタダならば観に行かなければ損だから…」


そんなこちらの思いを、映画本編はものの見事に打ち砕き、自分にとっての大事な1本となり。以降の人生に大きく関わる作品となったのだった。
その作品こそは…


『Stop Making Sense 』


一発でバーンの虜になってしまい、レンタルで(当時のビデオは高かった)何度も何度も借りては繰り返し観た。

元々《Talking Heads》の存在は、水曜深夜の11PMで今野雄二が取り上げたのを覚えていて。バーン本人も、今野雄二の事を「僕らを日本に紹介してくれた人」と語っていたらしい。

『Stop Making Sense 』は、〝 音楽史上最高のライブパフォーマンス 〟と語る人が多く、その意見には大いに同意するところ。
…とは言え、全てに於ける有名なライブパフォーマンスに精通している訳ではないんですが^_^;

でも1つだけ付け加えさせて貰えるならば。バーンにはバンド解散後のソロ活動で、『Stop Making Sense 』を越えるライブ映像を残しており。それが当時、日本でもLDで発売されているのだ。


『Between The Teeth』

70分を超える完全バージョン。

https://youtu.be/YXaNLDL-Xac



残念ながら日本では評判にもならず。その後もCDやDVDの発売には至らず。日本では長い間、幻のライブ映像だった。
それが今ではYouTubeで簡単に見えてしまうのだから、、、
嬉しい…って言うか。逆に「大丈夫なのかよ!』って言う。
ただバーンは、この辺りに関しては意外と寛大なのか?は分からないのだけれど。自身のライブに於いて、携帯での撮影を容認している節が見受けられる。
その為、YouTubeには彼のライブ映像が数多く投稿されていて、観客の多くが普通に撮影している映像が堂々と映っている。
(過去の日本公演の時には、観客の携帯電話を一時的に預けるルールが有った)

その中の1つを。
2009年に来日公演の際にはアンコールでも披露した(talking haeds)自身最大のヒット曲 ♬ Burning Down the House のパフォーマンス。
何故チュチュを着ているのか?は、当時のライブに参加した人達にしか分からない筈だ(^^)


https://youtu.be/GqKFm6q9ZIY


何故にここまで長々と書き込んでいるか?と言うと。人によっては「デヴィッド・バーンって誰よ!」って事だろうし。世界的には評価の高いアーチストでは有りながら、そもそも日本では無名に近く。世間的にはどうでも良いって存在だろう。
何しろCDショップに行くと、彼のCDは有名なショップでも精々2〜3枚有ればまだ良い方。
大概は隣に有る同じデヴィッドでも【ボウイ】のCDは有り余る程に在るのだが、、、

そんなバーンは、これまでに歌・パフォーマンス・歌詞等を通して、世界に向けてどんなメッセージを送って来たのか?
以降の文章には、私個人としての大いなる《思い込み》が大部分を占めるので、どうでもよい文章の羅列となる事をどうかご理解下さい。


《heads》としては主に〝 愛・家族・平和 ・調和等を強調する歌詞が多かっただろうか。

例えば、フアンの間でも未だに評判の高いアルバム『 Little Creatures 』の " Creatures of Love " では

「セックスってのはけっこういいものさ。分別のある眠りから生命が生まれる。俺たちは愛の産物さ!」

と歌い。アルバム最後の曲で、今でもコンサートではアンコールで歌う機会が多い名曲 ♬ Road to Nowhere では

「僕らはあてのない旅へと出発するのさ、さあ一緒に出かけよう!」…と歌う。

♬ Road to Nowhere

https://youtu.be/ti4DisTlfDY



バンドのデビューから、このアルバムまでは順風満帆の様に見えた。
この間にはあの『Stop Making Sense 』も制作され、バンド全体にまさに飛ぶ鳥を落とす勢い…も感じられる。
だけど、そんなバンドに亀裂が入り始める。
その辺りはWikipedia等を参考にして貰うとして。個人的にはバーン自身が、映像制作に対しての興味を増して行った事が大きかったのではないか?と思っています。

『Little Creatures』には当時まだ無名に近い監督がMVに参加しているのだが、その中の1曲がこの映像。


〝 The Lady Don't Mind 〟

https://youtu.be/79kSk5ZDSCI

この映像を撮った人物こそは、後にカリスマ映画監督となるジム・ジャームッシュ本人。


まさにジャームッシュらしい映像そのものなのですが、バーン本人もジャームッシュ的な【皮肉屋】っぽい性格に見えるところが元々有った様に見える。
そんな様々な要因が複雑に絡み合ったのだろうか?バーン自身は映画制作へと踏み切り、バーン自身も次第次第に政治を皮肉ったりする歌詞が増え始める様になる。
自身で『 True Stories 』を撮り、この作品がアルバムコンセプトそのものをMV風味とストーリー性とを強引に併せた不思議な作品となり、次第にバンドそのものの方向性に歪みが入って行ったのだろうか。

『 True Stories 』にはそれまでとは違って、♬ Puzzlin' Evidence とゆう神様を利用しては大金をせしめる信仰宗教を皮肉った曲を歌う。

「よろしい!私が神に成り代わり皆に訓示を述べる!」

♬ Puzzlin' Evidence

https://youtu.be/uJzs3pU7oeo


この、それまで歌って来たのとは少し違い。徐々に政治色が強くなって行く傾向は、次のアルバム『 Naked 』で更に増し。その中の1曲♬ The Democratic Circus では、政党の集会に参加した子供が、「まるでサーカスの様だ!僕はとても興奮した!」と歌いつつ。次の瞬間には「でも!この中で一体誰が裏切られて切り捨てられるのだろう?」と、バーン一流の政治に対する皮肉と同時に。全員が同じ方向を向く怖さに対する危機感を投げかける。

♬ The Democratic Circus

https://youtu.be/FfJKlezW5EA


そう考えて行くと、アルバムの1曲目に有る名曲
♬ Blind には、一見すると暴力の恐怖に怯える女の子の姿を歌いながらも実際には…

「見て見ぬ振りをするのは悪に加担するのと同じ事!」…との意味合いにも聴こえて来る。
声を挙げなければならないならば勇気を出せ…と。

♬ Blind 公式ビデオ

https://youtu.be/8ut5tHfbaJA?list=RD8ut5tHfbaJA


この『 True Stories 』と『 Naked 』の2っのアルバムこそは、バンドの力量とトータルコンセプトに於いて最高に近いと、思ってはいるのですが。
『 True Stories 』では当時の米ソ冷戦時代を憂いているかの様に見え。アルバムの最後の♬ City of Dream の中で…


「いつの日にかこの街は跡形もなく消えてしまうのだろうか、、、皆んな大好きなこの街を忘れないで!」…と歌い。


♬ City of Dream

https://youtu.be/-zk6IlIMfmo



そして次のアルバム『 Naked 』の中で歌われたのは。とうとう核兵器が使われてしまった後の世界を嘆いては…

「デイリークイーンもセブンイレブンも無くなってしまった。ガラガラヘビを捕まえないと、今日の食事にもありつけやしない!」…と歌った超名曲の♬ Nothing But Flowers

公式ビデオより

https://youtu.be/2twY8YQYDBE

そんなバーンだが、何とロシアでのライブでこの曲を歌っていた

https://youtu.be/YN7kCztlxGU

そして還暦を迎え枯れた味わい深い歌声

https://youtu.be/zjPtuhEJQb4


その後も数年おきにアルバムを制作。
そんなワールドワイドな音楽を取り入れての音楽活動は、再度Wikipediaを参考にして貰えると理解しやすいかと思います。
その間に日本公演は(確か)2002年に『 Look into the Eyeball 』のワールドツアーで渋谷のライブハウス。
2009年にはブライアン・イーノと共作した『 Everything That Happens Will Happen Today 』の同じくワールドツアーの為に、原宿のライブハウスで来日公演を行っている。
ライブ自体は物凄く盛り上がったものの、必ずしもチケットの売上げは芳しくなかったのかも知れない。
実際問題、(私の記憶違いでなければ)横浜で予定されていたライブは数日前に中止されているし(メンバーの誰かが病気だった可能性は無いとも言えないが、、、)
原宿でのライブの時も、明らかに招待券で入場したと思わしき若い子達は多かった。
2階席には空席が目立っていたし、「誰だか知らね〜けどカッケ〜」…等と叫ぶ声も多く聞こえて来た。

この2002年と2009年のライブに於ける違いと言えば。先ず第一にバーン自身のボーカリストとしての力量が、歳を取るに従い目覚ましい程の進化をしていた点には驚いた。
おそらくは、この頃からスマートフォンと共に、映像コンテンツの飛躍的な進歩が重なっており。バーン自身がこの時期から精力的にライブ公演を行っていた事によるモノとの推測が出来る。

そのライブの内容自体も、2002年の時にはバリバリのロッカーとしてのライブパフォーマンスに徹していたのに対して。2009年のライブの時には、前半こそは自らギターを持っての姿が多かったものの。後半には、前半から登場していた女性2人と男性1人とのダンサーと一緒に、舞台広しと踊りまわるバーンのパフォーマンスが存分に見られた。

バンドの後期と、ソロ活動の際に垣間見られた政治色は2008〜9年のワールドツアーの時には。アルバム『 Everything That Happens Will Happen Today 』から逆に強調していた《HOME》と言う原点回帰とも言えるコンセプトで、政治性のメッセージは逆に薄まっていたと思える。

あれから早くも10年以上が過ぎた。
バーン自身は毎年の様にコンサートツアーを行なっているらしいのは、YouTubeの投稿から知っていて。何とかまた来日して貰ってのライブを見たいのだが…

前回の時のチケットの売上げの悪さなのか?それとも自分を日本へ紹介してくれた今野雄二が、前回の来日後に自殺して亡くなった事から、敢えて無理して来日する必要を感じなくなったのか?等と、おかしな勘繰りを思いながら。今回のライブ映像の予告を見る。
まるで前回の来日時に見せたライブパフォーマンスを更に推し進めた様な、舞台全体を使ったパフォーマンスに想いを寄せる。


「(headsの)再結成はお金にはなるだろうけど、新しい何かが生まれるとも思えない」


そう語るバーンは最早、ミュージシャンとしての終盤に差し掛かった(このライブパフォーマンスの始まりは)70歳を目前にしたご老人。
まるで、還暦間近だった前回の来日時に、仲間で作り上げる舞台に自分の最終形態を見たのか?と思ってしまう程に、ダンサーと共に歌いながら踊るバーンの姿が活き活きとしていたのを、昨日の事の様に思い出す。


そんなバーンが(おそらくは)数年前から社会の表舞台に飛び出して来た1人の男の存在を段々と無視出来なくなって来たのだろう。


その男こそはあのドナルド・トランプ


度重なる様に(日本にも)聞こえて来る女性蔑視であり、人種差別的な発言。

トランプが何らかの問題発言を繰り返す度に、バーンは冷めた様に(必ずしもハッキリとは言ってはいないのだけど、ニュアンスとして)「出るべくして出て来た人物」…と言う様な発言を幾度となく語っていた様に思える。


普段は社会に対して斜に構えた様に冷めた視線を投げかけるバーン。
そんなバーンとは正に真逆の位置に居ると思える、人種差別発言には急先鋒で批判を繰り返すスパイク・リー。
この2人が一体どんな経緯を通じてタッグを組むに至ったのか?は分からない。バーン本人も一体いつ頃だったのか?を覚えていないと語る。

そんなリーの熱気に煽られてしまったのか?自身が最終形態として作り上げたパフォーマンスと、過去に作って来た作品。そこにリーの強烈なメッセージが合体して出来上がった舞台こそ、バーンがどうしても社会に対して伝えたい…伝えなければならないと感じた作品だったのだろうと思う。

トランプ政権誕生から顕著になった人種差別発言であったり。このライブパフォーマンスの映像化以降に大きなうねりとなったBLM運動の拡がりは、この作品誕生の経緯のその時から既にその予兆の様なモノが感じられる…と言ってしまっては笑われてしまうだろうか。
そこには、絶えず社会に対し斜に構えていた建前の心では無く。心の底から吐き出すバーンの魂がパフォーマー全員にも乗り移り。社会に対する強烈なるメッセージとして発散されていた。


人間の脳は歳を取るに従って衰えて行く。
そのスピードが衰えると判断力が鈍くなる。
その隙間に入り込んでしまう。それが、、、


〝 洗脳 〟



時には世界も間違える。
かつてナチズムやファシズムが台頭し、世界は地獄を見た。

アメリカを筆頭とした差別は未だに無くならない。


「私には夢がある!」


あのキング牧師は叫んだ。
昔から比べたらならば、差別は減っている。
だが、このところの現実を見たなら果たしてそうだと言い切れるのか?
僕らの理想郷は少しずつ離れて行ってしまったのではないか?

「何故こうなった?」

毎日が過ぎて行く、(実態どころか、目にさえ見えない恐ろしい何か?の力)水に押し込まれてしまう、、、


しかしバーンはこのライブパフォーマンスを通じ、キング牧師の様に叫んだりはしないが心ひそかに訴える。


僕たちには《変革》が必要だ!
(淀んでしまった)水は汲み上げて浄化すれば良い。
家に閉じこもってはテレビばかりを見ているだけではダメだ!
そんな家も自分も焼き尽くせ!(自らの殻をぶち破れ!)


〝 皆んなおいでよ僕たちの理想郷へ 〟


「人と人は必ず繋がり合える。決してあてのない旅なんかじゃない。まだ希望はある!」…と。


2021年6月2日 TOHOシネマズ日本橋/スクリーン7

2021年6月3日 TOHOシネマズ日本橋/スクリーン7

2021年6月6日 TOHOシネマズ日本橋/スクリーン8