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アメリカン・ユートピアのmatchypotterのレビュー・感想・評価

アメリカン・ユートピア(2020年製作の映画)
4.0
『マルコムX』『インサイドマン』『ブラッククランズマン』のスパイクリー監督。
実はこの人の監督作品、初めてかも知れない。

初めてがこれって入り口としては良くも悪くも間違えたかも知れない。

デヴィッドバーン。70年代後半〜90年代前半までトーキングヘッズなるロックバンドで活躍してた彼を起用。

正直、ジャンルがなんだかわからない。
映画として観るモノとしては、新感覚なコンテンツ。
ミュージカルのようで、戯曲のようで、音楽ライブのようで、舞台のようで、トークショーのようで。アメリカのブロードウェイの自由さをとても感じる。

実際に目の前に観客がいるので、ショー形式であることは間違いない。

そして、いきなりデヴィッドバーンが出てきてポップなロックで歌い始める、、、人間の“脳”について。

この原案は同名のアルバム。
このアルバムで全国ツアー後にこれをブロードウェイでショーにしたら大ヒット。しかし、コロナ禍により熱望された再演は叶わず。それがこの映像コンテンツ化に繋がる。

デヴィッドバーンと他10名ぐらい。
全員が裸足でグレーのスーツ姿。楽器は全てワイヤレスで打楽器もマーチングバンド形式で目の前に抱えて扱う。

全員が同じ姿で、裸足で。
一糸乱れぬコンビネーションを見せながら舞台の上を動き回る。
このシンプルな構成でありながら無機質なのにワイルドで力強いパフォーマンス。

訴えていることは人体の構造、哲学的なことであったり、叙情的なことであったり、社会的なテーマだったり。
人と人とのつながりとか、人間の生物としての価値や、彼が生きたメディアや音楽の世界から受けた影響やその力、そしてその過程で感じたことや伝えたいことが詰まってる。

つまりパフォーマー、デヴィッドバーンの人生観や音楽性そのものを1つの物語にしている。

それが伝わりやすいような手段を選び、曲やその構成、間のトークを整えていくとこうなった、みたいな作品。

これは、ブロードウェイで火がついたのも何となく理解できる。
映像コンテンツ化されてるので、いくつかのカメラで多彩なアングルから撮られたものをよしなに編集はされてるが、これは生で観てみたい。

曲調も聴きやすいというのもあるが、スタイルそのものが斬新で、無駄な脚色、装飾を一切排除しているのに、ここまで奥深く作り込まれている衝撃。

照明やこの舞台の仕切りの境目にある鎖状のカーテン。この使い方、仕組まれ方が只事ではない。
無機質にも、感情的にも、幾何学的にも、神秘的にも観える。とんでもない演出力。

ぶっちゃけ、“いつもの映画”のつもりで観ると裏切られる。
でも、その裏切りはいつもと全く違う衝撃を連れてくる。

デヴィッドバーンが脚本書いて演じきり、スパイクリーが作り上げる。この作り込まれた他にはない世界観にズルズル引き込まれる。
またとんでもない代物を観てしまった感に襲われる。
途中のストロボ演出、そこまでの流れも含め、これは圧巻。

ダンス担当以外はそこまで激しいダンスはしてない。
でも、この全編トータルで考えると、この主役デヴィッドバーン含め楽器を抱えて動くメンバーも、恐ろしい運動量。

それをやたらと楽しげに涼しげな顔して最後まで主張しっぱなしで演じ切るデヴィッドバーン、70歳手前ぐらいか。
バイタリティ、人に訴えるプレゼン力、ちょっと凄すぎやしないか。

人の繋がりや脳の繋がり、人の向かう先、その過程で起きるたくさんのこと。
このスタイルで、この彼が歌に乗せて伝えることに意味があるような作品。


F:1856
M:14158
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