困ったな、感動しちゃったよ。本質的にはノワール/探偵モノである話を語るのにこれだけ複雑な設定と金のかかった画面を用意しなきゃならないのは不健康に感じるのだけど、良く言えば古典的だが古臭い物語をとってつけたような現代性で糊塗せず愚直に語ろうとする姿勢に心動かされた。
だから僕はこの映画に敗北したこと前提に言うが、やはり物語が必要とする以上に設定が複雑すぎる。あの大仰な記憶装置は古典ノワールでの絵画やフィルムに相当するものであり、途中でスクリーンに記憶を映写する場面があるが、本来あの程度の規模の装置で事足りるものだ。
それと確かに水はノワールに重要な要素であり、リサ・ジョイもそれは承知なようで、全編を通して水にこだわりを見せている。主人公が店を構える半水没した通りなどはなかなか魅力的だ。だがそれも本来はグラスに注がれるウィスキーなどの細部でこそ活きるもので、アメリカを丸々水に沈めなくてもいい。
それに一番腑に落ちないのが、ジャックマンが実物のファーガソンと初めて出会うのと誰かの記憶の中で彼女を発見する順序は逆であるべきではないかということだ。
だがそれらを踏まえても、真相が明かされるにつれてむしろ卑近な矮小さにはまっていくストーリーや平凡で感傷的な結末がなぜか沁みた。あとジャックマンを見逃すボディガードがいい。こういうのに弱いんですよ。
