ジェイコブ

SNS-少女たちの10日間-のジェイコブのレビュー・感想・評価

SNS-少女たちの10日間-(2020年製作の映画)
4.6
これはチェコで撮られたあるドキュメンタリー映画。オーディションで選ばれた三人の女優に12歳の少女のフリをしてSNSに登録し、接触してきた男達とやり取りをしてもらう。その際、いくつかルールを設け、大事なのは自分から誘ったり要求するような行為は避けること。弁護士や精神科医の立ち会いのもと行われた10日間の実験では、およそ2千人以上の男達から連絡があった。これは現在進行形で起きている「ネット上」における児童への性的虐待に迫ったドキュメンタリーである……。
昨年公開され、物議を醸したドキュメンタリー映画。今回の実験ではチェコを舞台にしたものだったが、児童への性的虐待は全世界で今この瞬間にも起きている事である。見終わった後、本作がフィクションであればどれほど良かったかを考えてしまうくらい、終始胸くそ悪い。かのスティーブ・ジョブズは自分の子供にスマホを渡さなかったらしいが、その気持ちが本作を見た後であれば分かる気がする。
中盤、男達から実際に送られてきた男性器の画像が街角コレクションみたいに連続でカットインするシーンは、男でも思わず目を背けたくなるほど気色悪い。またSkypeのシーンでの男の顔へのモザイクのかけ方も、目以外をかける斬新さで、劇中何度も使われるSkypeの呼び出し音と相まって、夢に出てきそうな気味悪さを演出している。
特筆すべきは、性的要求をしてきた連中が、子供キャンプのリーダーであったり、孫もいる老人までいたりと非常に多種多様に富んでおり、この問題がいかに根深いかを物語っている。
本作では気色悪い写真を送られたり、要求したのが見ず知らずの中年男であるため、不快感を覚えることができたが、これが自分の好きなYoutuberやミュージシャンだったらどうなっていただろう。少し前にある人気Youtuberが児童ポルノに関する罪で逮捕されたのが記憶に新しい。彼がやっていた事もまた、本作に出てくる男達と同じであるが、彼のファンにも未成年が多く、被害者と同じ状況に置かれたとき、どれだけの人が断ることができただろう? 自分の応援する人と自分は繋がれた、嫌われたくないと思うあまり、性的要求に従ってしまうというケースは少なくないのではと思う。その場合、本作はあくまでも氷山の一角に過ぎず、明るみに出ていないケースはかなりあると想定されるが……。
ビリー・アイリッシュやAdoの「うっせえわ」がティーンエージャーの間で持て囃されるのは、子供達が漠然と抱く不満、本音と建前に見え隠れする大人たちへの違和感を代弁しているからに他ならない。本作に出てくる男達の、少女をあからさまに見下す口調や態度から見ても、子供達からすれば「尊敬できる大人とは?」と思えてしまうに違いない。
SNSと子供というテーマではエイスグレードが明るい面を中心に描かれたのに対し、本作は闇の部分に焦点を当てている。SNSの登場により、運が良ければ、誰でも明日からスターになれる時代になった。子供達にとって人気の職業がYoutuberであるように、SNSの持つ明るい側面にばかり目が向けられている。しかし実際は、純朴な子供達を自らの欲望の為に利用しようとする輩は数多くいて、保護者はそんな連中の毒牙から我が子を守らなければならない。本作のエンドロールでは、製作者から子供を持つ保護者へ「ネット制限だけでなく、子供達とちゃんと話をしましょう」とメッセージが送られている。それはこの問題の根幹にあるのが、家庭にも学校にも居場所を見つけられない現代の子供達の孤独があることを伝えようとしている。生々しい描写だらけだが、当事者である子供達、保護者にこそ、見せなければならない映画である。