カツマ

オキシジェンのカツマのレビュー・感想・評価

オキシジェン(2021年製作の映画)
3.7
絶体絶命の監獄、孤立した迷宮。密閉された空間が、まるで生き埋めになったかのように絶望の予感を綴る。不可思議な記憶と、不確かな過去。謎を解く鍵は自己の脳裏を漂っていて、パズルのピースとなって散りばめられた。二度と大切な人に会うことはできないのか、カプセルの中でただ死を待つことしかできないのか?残された酸素はわずか。時間は砂つぶのように手のひらの隙間を擦り抜けていった。

『ハイテンション』『クロール凶暴領域』といった、一癖も二癖もある作品ばかりを世に送り出してきた、フランス出身の奇才、アレクサンドル・アジャ。数々の残虐描写を衒いもなく映像化してきた彼が送り出すのは、『酸素』というタイトルを持った、謎めいたワンシチュエーションスリラーである。とある場所に閉じ込められた女性は記憶を失っており、何が起きたのか分からない。そんな絶望的な状況下で物語はどんな帰結を見せるのか。ほぼ主演のメラニー・ロランによる一人演技であり、そこから展開していく謎の正体に戦慄してほしい作品だった。

〜あらすじ〜

とある女性は密閉空間の中で目覚めた。そこは人間の身体一つ分の大きさのカプセルの中で、女性は何が起きたのか分からず恐怖に怯える。女性は記憶を失っており、自らに起きた状況を理解するのは不可能だ。彼女の唯一の話し相手はカプセルに搭載されたAI、ミロ。残された酸素は40%を切っており、これがゼロになると助かる可能性も無くなってしまう。
女性はまず何が起きたのか探ろうと、ミロに色々と尋ねてみるも、ミロに答えられる回答は限定されていた。そこで女性は質問を変え、自分が何者なのかを解き明かそうとする。
続いてミロに遺伝子情報を検索させると、自分がエリザベット・ハンセンという博士であることが分かり、リズという相性で呼ばれていたことも思い出す。そこでリズはミロを介して警察へと電話をかけ、助けを求めることに。だが、警察は何事か隠し事をしている様子で、助けるとは言うものの真実味は薄い。その最中、リズは自らに愛する夫がいたことを記憶の片隅から浮かび上がらせて・・。

〜見どころと感想〜

ワンシチュエーションスリラーなので、基本的に主人公の一人称視点で進む物語である。そのため、謎が解き明かされる前段階の序盤30分は、主人公の顔のアップばかりで、忍耐を求められる時間帯となるかもしれない。記憶が解きほぐされていくたびに、物語の骨格はミニマルからはみ出して、マキシマムな実像を形成。その極端な飛躍が今作の魅力であり、ボヤけていた物がクリアになるにつれて、作品自体への没入感も増していくことだろう。

主演のメラニー・ロランは、2時間弱、ひたすらに不安と戦う役どころを熱演しており、彼女の演技力無くして今作は成立しない。他にビッグネームは出演していないように思えるが、実はマチュー・アマルリックがミロの声を演じているというサプライズもあり。彼はフランス映画好きにはお馴染みの名優で、今作ではあのギョロっとした瞳ではなく、流麗なフランス語での登場となる。

今作は基本的にネタが割れてしまうと面白さが激減してしまうので、ネタバレは踏んでほしくない作品である。密閉空間に何故閉じ込められているのか?主人公は何者なのか?夫は実在しているのか?ネズミの意味とは?たくさんのクエスチョンの山を彷徨いながら、自ずと答えは導き出されていくことだろう。

更に言及すると、この映画は究極の密回避映画でもある。コロナ禍だからこそ生まれた作品なのかもしれないし、限られた制約の中でアレクサンドル・アジャが新境地を開いた作品とも言えるのかもしれない。

〜あとがき〜

設定としてはライアン・レイノルズ主演の『リミット』が近いでしょう。ほぼ同じカットで長い時間を見せ切る技量、センスが凝縮された作品です。ただ、序盤の展開はだいぶ遅いので、そのフェーズを乗り越える必要性は感じましたね。そこを乗り越えれば、スルスルと謎は解かれていくので、退屈に感じることもない、はず。

エンドロールもカッコいいので、そのあたりの映像的な見せ方にも注力してほしいです。アレクサンドル・アジャは今後はスプラッターのイメージから離れていく?とは思いませんけれど(笑)
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