大半はセットで撮影されているが、冒頭の岐阜/福井県ロケは自然が美しく、幻想的ですらある。
加えてラストに、イグアスの滝が登場!
果たして合成かロケなのかは判然としないが、大胆な采配に驚かされる。
ヒロイン/夜叉ヶ姫の二役を演じるのは、坂東玉三郎。
人間役においては不味い台詞回しが引っ掛かるものの、中盤に現れる姫役の見せ場では堂々たる演じっぷり、さすがの一言。
白塗り+真っ赤な紅+黒髪の美粧に照明が当たると一分の隙もなし、文楽人形のようにさえ観えた。
金糸が織り込まれた豪奢な打掛、花魁風前結びで鱗のような装飾が立体的な帯と、衣装も目を惹く。
また獅子頭のような髪型の老婆、落武者、そして妖怪らがひしめく有様はどこかコミカルで、ファンタジック・ホラーの態…、セットや照明の塩梅も相俟って、ソビエト産ホラー『妖婆 死棺の呪い』が想起された。
当該シークエンスだけでも、一見の価値ありだ。
正統派美男の加藤剛を映画で観たことはなかったが、演技もうまい。
彼は玉三郎演じる「百合」とのキスシーンもこなしている。
村人ですら正確に把握し切れていない百合の存在は、いま観るとそのまま、トランスセクシュアルのメタファーに観えなくもない…、また南原宏治や唐十郎らが、村人役で出演している。
そしてシンセの唸る音楽は、冨田勲。
夜叉ヶ池は実在しており、岐阜県のバス停から徒歩90分で辿り着けるらしい。
標高1,000m以上の山に現れる神秘の水場、いつか訪れてみたくなった。