ろーしゃーく

AGANAI 地下鉄サリン事件と私のろーしゃーくのレビュー・感想・評価

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地下鉄サリン事件の被害者でもある本作の監督さかはらあつし氏と、現Alephの広報部長荒木浩氏との随行行脚を記したドキュメンタリー。
実際の旅を映した作品でありながら、様々な文脈で読み取る事の出来る多義的な印象を受けました。

印象的だったのは、荒木氏の弟さんの病気にまつわるエピソード。そこで語られる"正しさがグラつき、日常を生きられなくなる"というイメージは、丁度3分の1ほど読み進めた宮台真司さんの『終わりなき日常を生きろ』とも繋がっていた事もあり特に記憶に残った。

荒木氏から滲み出る真面目で正しくあろうとする雰囲気も、だからこそオウムの思想に共鳴したのだとも読み取れて、難しいなぁと。
(「"正しさ"なんて無いじゃんね」くらいのバランスで丁度いいんじゃないか、と個人的には思いますが)

また、さかはら氏との友人的な関わり&家族や故郷の思い出を辿る行程を通して、荒木氏が感情を取り戻す話としても読み取れる。石投げのシーンの「まだ投げとんのかい!」「いい石があったんで」のかけ合いの絶妙さには思わず笑ってしまった程。
まぁでも、彼の場合出家当時友達もある程度おり家族とも不仲という訳ではなかったようなので、やはり"正しさ"を求める使命感のようなものが根本なんだろうとは思いますが。

本当に色々雑多な事を考えながら観ていたんですが、"正しさ"がグラついている感は現在の社会にも引き続き散見されるし、オウム真理教や地下鉄サリン事件は過去の事でも他人事でもない、という事を特に強く思っておりました。

…と、ここまで書いたんですが全くこの作品から受けた衝撃を表現できていない&出来ない気がするので、とにかく凄い作品です。必見。

【2021.3.22追記】荒木氏の「藁にもすがる思い」という発言は、自身が出家し師の教えに従う身である事と実際に目の当たりにした被害者の実態との間で葛藤する、心の叫びのように聞こえました。
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