【ファイナルでなくナスティ・ガールへ】
意外と驚きはあったものの、せっかくのお膳立てをちゃぶ台返しするような残念感は拭えず。
原題『CENSOR』は検閲、検閲官の意味。舞台は1985年の多分ロンドン。史実では、前年にビデオ録画法が制定される前は規制がなかったため、巷には残虐ビデオが溢れていた。そんな市場から送られる大量の作品を毎日、映画分類委員会に勤めるヒロインは検閲している。
…この初期設定はスゴくよかった。ちょうど『ブレインウォッシュ』を見た後だったので、まさにメイルゲイズな女性搾取映像を毎日、浴びるように見ているヒロインは、どんなメンタルで、どう変わるのか?
すでに異常事態にある女性なのだから、その積み重なる影響から現実を抉って欲しかった。それで充分、興味深い物語ができたと思う。監督も女性だしね。
しかし本作の展開だと、ヒロインが元々特殊な人物で、検閲官という職業が殆ど意味を成していない。他の職業でも、トラウマの原因に迫るうちに映画制作の現場にたどり着く…なんてあり得るわけだから。
現実と妄想間の揺らぎは“あるある”で退屈な一方、ヒロインが逸脱してゆく彷徨感に、独特の味は出かかっていた。映画をロジックで組み上げる一歩手前で、その感覚優先で暴走してゆく快感は確かにある。
監督のインタビューで、
“抑圧されて影にいる自分、あるいは仮の自分、そういった自分が認めたくない側面を持つキャラクターを掘り下げたくて、描こうとすると、内に秘めていた恥や負の見たくない自分の感情も、現実世界にモンスターとして具現化してしまう。そうして意図せずホラー的な物語になった…”
という旨が語られており、意図は納得したが、それを検閲官でやったら失敗しちゃった…ってことかと。どうしたって、残酷描写やそれを検閲することの是非、という社会性が問われるわけで、私的事情からなんちゃってホラーに逃げれば検閲という職業をバカにすることにも成りかねない。…実際なってるけど。
よく槍玉に上がる、ホラー描写が現実に与える影響云々に向き合わないと、こうなっちゃうんだろうね。
ヒロインを演じた女優さんはステキでした。美顔と、もっさりした後ろ姿のギャップに萌えます。
そういや、監督はリンチ好きらしいが『ツイン・ピークス』の“ボブ”が、妙に成長した姿で出てきたね。
予算からの必然かもだが、地下鉄に向かう?地下道の煤けた色彩など、ロケの効きには見応えあった。
<2024.9.11記>