はい

こぼれる記憶の海でのはいのレビュー・感想・評価

こぼれる記憶の海で(2020年製作の映画)
4.0
恐ろしい物語だと思う。
昨年、祖母を亡くした。衰弱と、認知症による忘却が死の直前まで徐々に進行し、文字通り秒を読むかのように2が1となり1が0となり息を引き取ったらしい。年に1度訪ねる程度で、時間にすると寂しい関係ではあったものの、認知症により顔と名前を忘れられた際は、明確に自分の内の何処か代替の効かないスペースがくり抜かれたような感覚になったのを覚えている。

この映画と同様に、忘却の前では圧倒的に人間は無力であり、それが与え得る大きすぎる悲愴を知ってしまった。

その人の中では既に存在しなくなったのに、自分はまだその人を記憶しているという非対称性を受け入れらるだろうか。あるいは忘れられたにも関わらず存在している矛盾に向き合えるのだろうか。自分自身の質量に耐えられるだろうか。
忘れる前に失う前にと、手記を読み上げる彼の姿が人間としての美徳であるならば、私達は懸命になって築き伝え宿し、負けの分かっている試合に臨み続けなければならない。無駄だと突き放されても信じる選択をしていきたい。残酷な話ではあるが、至って正統な教訓でもある。
ラストは特に言及しない。
はい

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