岡田拓朗

Arc アークの岡田拓朗のレビュー・感想・評価

Arc アーク(2021年製作の映画)
4.1
Ark アーク

私は世界に触れる。

人間はいつか老いていき、死を迎える。
それは決して抗うことのできない現実であり、自分たちはその揺るぐことのない現実の中で生きている。

そのため、不老不死になることが前提に生きることを普段の生活からは考えることはあまりないだろう。

ただし、もしも不老不死が実現する社会となったら…そんな世界観が今自分たちが住んでいるような世界の延長線上で、どんな選択をして生きていくのかを問われながら描かれる。

美しさが際立つ見応えのある演出と映し出される世界観のリアリティが、よりこの映画に没入させてくれ、同じ境遇になった際の生き方について、いろんな視点から考えさせられる。

その中には、誰もが不老不死を求めるわけではない考え方もあって、それが誰もが手に入るわけではない現実もあって、より生き方の幅について示唆されながら、不老不死が実現する世界の是非についても問われているような感覚に陥る。

誰もが不老不死になれないことは、それだけ人を分断させてしまうことにつながらないか。
自らの選択でそれを望まないのは別として、望む人がそれを受け取れない背景も描かれて、人間の生死に関する倫理観が揺さぶられていく。

さまざまな境遇から人それぞれの選択に一身に触れていき、世界を見つめていく存在として描かれていたのが永遠の命を得た芳根京子さん演じるリナ。

俯瞰的に世界を見つめながら対峙する要素も一人一人に寄り添いながら対峙する要素をも持ち、生きることへの余裕や器の大きさが随所に垣間見える。

それはいつ壊れるかわからない危うさを内包する17歳のリナとは、全然異なる人物としての成長があった。
天職と言われるような仕事(ボディワークスを作る仕事)との出会いから、そんな大事な仕事を投げ打ってまで取り組みたいと思える、不老不死の世界を実現するための仕事に至るまでに、どんどん人が変わっていくかのように良くも悪くもに壮大な物語の中で繰り広げられる成長を追うのもおもしろく、見応えがあった。

不老不死を得たからこそ、今までの概念の中で生きることはなくなり、それだけ余裕が生まれて、多くの人の喜怒哀楽に触れられ、さまざまな境遇の人に寄り添えるようになる。
それでも大切な人に対する思いや感情は特別で、そこにより彼女の人間味を感じられた。

不老不死が実現できるからといって、誰もが不老不死を手に入れようとするかはわからない。
でも、不老不死を手に入れて欲しいと願うリナ。
どちらもの想いが交錯する展開に、(もし可能であれば)不老不死になりたい派である自分も、どちらもに感情移入できて、より死生観が揺さぶられていった。

そして、本作は2部作になってるような作品で、不老不死が実現できない世界の中での生死と不老不死が実現できる世界の中での生死を描きながら、テイストもガラッと変わる作品でもある。

前半は死を前提としたうえで、そこに生を吹き込んでいく意味での生死、後半は死が前提ではないうえで、考えさせられる生死。
前者がしっかりと描かれることで、死が前提となる現実の中でも、死後をどうするのか、そこに生を吹き込んでいく選択肢はあるのか、その必要性はあるのか、そこへのこだわりについても感じられ、全く見たことも考えたこともないことに触れられた感覚を得られた。

後半のモノクロに映し出される世界観も幻想性を感じられて、合う合わないは完全にわかれそうだが、これはぜひ映画館のスクリーンで堪能して(世界観に没入して)欲しい映画。

P.S.
最近芳根京子さんの躍進が凄いけど、素朴そうな雰囲気と演技力の高さゆえに、どんな役でも魂が乗り移ってるように見えて、本作はそれが際立っていた。
役に憑依するをまさに体現している女優さんだと思うし、この若さであれだけの役を演じ切れるのがとにかく凄い!
実際に歳を重ねていくにあたって、どんな女優さんになっていくのか、よい意味で全然読めない。
とんでもない女優さんになりそうな気がしてる。
『蜜蜂と遠雷』でも感じたけど、美しさと没入感を感じられ、自分のイメージを入れる余白がちゃんと用意されてる石川慶監督の映像表現やっぱりよき!
岡田拓朗

岡田拓朗