MasaichiYaguchi

デカローグ デジタル・リマスター版のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

4.3
ポーランドの“愛の映画作家”クシシュトフ・キェシロフスキ監督の聖書の十戒をモチーフにした伝説の傑作が、このコロナ禍の真っ只中にデジタル・リマスター版で公開されるのも何か運命的なものを感じてしまう。
元々はテレビドラマ・シリーズとして製作され、各1時間の全10話で構成されている。
1988年を背景にして大半はワルシャワの公営団地を舞台に、そこに住む人々が直面する道徳的・倫理的な問題が各話で描かれていく。
夫々の話は独立しているが、登場人物の何人かはお互い知り合いの関係にある。
全ての話に共通ではないが牛乳が印象的に登場したり、端役のアルテュル・バルシスが主人公を恰も“観察”しているかの如く出てきたりする。
人間、生きていれば様々なことに直面する。
歓喜することよりも落胆することが多かったり、掛け替えの無い人やものを失って喪失感に囚われたり、つい魔が差して罪を犯したり、そのことへの贖罪で苦しんだり、人を羨んだり妬んだりする。
この連作でも人生の悲喜こもごもが描かれるが、どちらかといえばメランコリックな色合いの話が多いと思う。
それでもキェシロフスキ監督は怜悧な人間観察の中に、何か温もりのようなもの、それは愛と言っていいものを忍ばせているように感じる。