そーいちろー

獅子座のそーいちろーのレビュー・感想・評価

獅子座(1959年製作の映画)
3.5
自由奔放にパリで生きる音楽家の男が、資産家の叔母の遺産相続を出来ると思ってから始まる喜劇。

これはフランス文学の人生喜劇の伝統を重んじた作品と言ってもいいのではないか。そこにロメールも含めたフランスのヌーヴェルヴァーグの連中が大きな影響を受けたイタリアのネオリアリスモ的な都会の悲惨な現実も入れ込み、ヌーヴェルヴァーグお得意の、それは徹底的な不足の上に生み出された「発明」であったわけなのだが、ロケ撮影でパリの街を縦横無尽に行き交うカメラ。

男は人生の浮沈をパリの街を文字通り「浮浪者」となることで経験していくのだ。

ラストはハッピーエンドともアイロニカルなものとも言える終わり方をする。

放浪者こそ真実を知るし、真の自由人であるとも捉えられる表現は、ヌーヴェルヴァーグにも大きな影響を与えた母国の英雄ジョンルノワール「素晴らしき放浪者」の系譜とも言えるかもしれない。

これで長編第一作ということで、どこかロメールのその後の作品にある作為的部分というもの、彼自身の個性というものはそこまで感じられないが、ロメール作品を魅力的たらしめる人間存在への裏面を描こうとする点、都会の喧騒とその裏寂しさ、そして透けて見えるフランス社会の階級社会に根ざした文化社会というものはしっかりと描かれていた。

ヌーヴェルヴァーグとしてはゴダールの「女は女である」に近いような、かなり娯楽に振った作品ではあるので、あまり深くものを考えないで映画を観たい年寄りなんかも、その作品の真因を考えずとも楽しめそうな作品ではあった。
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