なべ

マンディンゴ デジタルリマスター版のなべのレビュー・感想・評価

4.0
 チケットを取っていたにもかかわらず、ワクチンの職域接種でやれ高熱が出るらしいだの副反応がヤバいなどと騒いでるうちに、映画のことをすっかり忘れていた。先日、やっと予約してたのを思い出し、チケット代をドブに捨てたと気づいたのだった。がーーーん!楽しみにしてたのに。悔しい〜。仕方ないのでU-NEXTで視聴。無料期間内に気づけたのがせめてもの救いか。

 おぉーー!まるで差別の見本市じゃないか。ありとあらゆる人種差別がレベル別、ジャンル別、レイヤー別に描き分けられ、ごく普通のこととして(ここ大事!)表現されてる。ジェームズ・メイスンがゴリゴリの差別主義者をそれはもうのびのびと(ジェームズ・メイスンやスーザン・ジョージなど、英国俳優がキャスティングされてるのは、米国勢に出演依頼を断られたれたせいか。その後のキャリアに影響はなかったのか気になる)演じててかなりビビった。いや、逆に痛快だったと告白しておこう。そして何より恐ろしいのは、それらをなんの嫌悪感もなくすんなり受け入れてた自分だ。あからさまでえげつない所業なのに、心にさざなみひとつ立たないんだもん。
 それもこれも(誤解を恐れずにいうなら)、差別のアイディアの一つひとつがおもしろかったから。おもしろいという言い方に語弊があるなら、興味深かったからと言い直そう。とにかく、今どきの差別とは仕様が違いすぎてて、嫌悪センサーがうまく働かないのだ。
 例えば、奴隷を診るのは獣医なんてのは序の口で、リウマチに悩む農園主・ウォーレンが、痛みを移すために、黒人の子をオットマン代わりに使うとか。どうよ、発想がキテレツ過ぎてモラルが追いつかないでしょ。断っておくが、農園主は決してド変態や異常者ではない。社会的に地位も名誉もあるフツーの白人だから。当時のルイジアナではきっとこれが“当たり前”だったのだろう。そう推し量れるくらい自然に演じられているのがなんというか、その、見事なのだ。ふー。なんか、どう言い訳しても自分が差別主義者のような書き方になっちゃう。
 人種差別だけでなく、女性への偏見や身体の障害なども盛り込まれているから、忙しいのなんのって。ゆっくり分析してる暇などないよ!
 例えば主人公ハモンドは処女性をやけに重要視してるんだけど(今でもたまにそういう輩がいるけどおまえら全員滅べ!)、処女=純潔と捉え、それを尊ぶことが愛だと勘違いしているのか、それとも片足が不自由なことがなんらかのややこしいコンプレックスを形成してるのか、考察したいけど情報量が多くて立ち止まれない。てか、先が気になって止める気にならない。
 何よりクライマックスでハモンドが描いた地獄絵図の素晴らしさよ。これが怒りなのか差別なのか、正直ぼくには判断できなかった。ミードは「あなただけは他の白人と違うと信じてたのに!」とハモンドをなじるが、彼の激昂はおさまらない。ミードよ、それはちょっと違くないかい? おそらくハモンドはミードが白人だったとしても同じことをしたと思うよ。
 見ようによっちゃあメロドラマとも捉えることができるけど、風と共に去りぬでは描かれなかったもうひとつのビジネス〈奴隷を繁殖(本当に繁殖って言ってるんだよ)させて売買する〉をきちんと描き切った功績は讃えてもいいのでは?
 いやあ、悪趣味もちゃんとつくれば立派な作品になるんだな。少なくともぼくには、本作が観る者の価値観を上手に揺るがしにくるしごく真っ当な作品に思えた。“奴隷をめぐる問題作”なんてひとことでは片付けられない凄みと、バカ正直さをぜひ見てほしい。
 「最悪の映画」「クズ」「下品の極み」など散々な言われようだが、ぼくは擁護したい。露悪趣味とはまた違う、これは過去の負の遺産を巧みなアプローチでつまびらかにした意欲作であると。

 そうそう、忘れちゃならない劇伴はモーリス・ジャール。このエグ味を流麗なメロディが後押ししてるのもまた興がのる一因かと。

※Filmarksには同作が二つあるが、うっかりして観に行けなかったデジタルリマスター版の方に悔しさを込めてレビューした。デジタルリマスターじゃない方のマンディンゴは、黒人の子をオットマンにしてるパッケージなので、その強烈なヴィジュアルもあわせてご覧いただきたい。

追記:
 ここで描かれた奴隷制度が米国の人種差別の起点なら、まだまだ先は長いなと妙に納得してしまった。いつも思うことだが、主イエスはそんな差別を決してお許しにならないと思うのだが、信心深い南部の米国人はそこんところ、どう折り合いをつけているのだろう。てか、ぶっちゃけ米国の神はずっと休業してるよね。

さらに追記:
 フォロワーさんのレビューで「悪意のない差別」ってワード見かけて、ああ、それがすんなり受け入れられた要因か!とわかった。自分の感性に不具合があるのかとちょっと焦っていたが、おかげでスッキリした。nさんありがとう。
なべ

なべ