Inagaquilala

FUNNY BUNNYのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

FUNNY BUNNY(2021年製作の映画)
4.0
飯塚健監督の作品は、デビュー作の自主制作映画「Summer Nude」(2003年)から観てきているが、この「FUNNY BUNNY」は、彼が長年温めてきた物語でもある。なぜなら、主要登場人物の造形と図書館ジャックというモチーフは、2007年の彼が演出したオリジナル脚本の舞台「FUNNY BUNNY」ですでに描かれているからだ。その後、2012年には、再度、「FUNNY BUNNY 鳥獣と寂寞の空」として新たなかたちで上演されてもいる。さらに2015年には、自ら執筆した同名の小説も刊行しており、映画監督である彼にとっては、もっとも映像化したかった作品かもしれない。

飯塚監督の作品の特徴としては、その鋭敏な言語感覚にある。もちろん、それが舞台や小説を手がける理由でもあるのだが、映像作品でもそのオリジナリティーは十分に生かされている。そればかりか、その速射砲のように放たれる言葉は、映像にも影響を及ぼしており、彼の映画でいつも感心するのは、そのカットとカットのスピード感だ。リズム感よく切り替わっていく映像は、まるで彼の持つ言語感覚そのもので、いつも快い、そして知的な感覚をつくり出している。

この作品でも、主人公の自称小説家の剣持聡(中川大志)が放つ台詞は、口癖の「世界を救うのはいつだって、想像力だ」をはじめ、まさに飯塚色が色濃く出ており、周囲もそれにつられるかのように独特の言語空間を醸し出し、かつ不思議な映像空間もつくり出す。タイトルともなっているウサギについても、劇中でも効果的に使われており、彼が最初からこの物語を、映像を意識して書いたのではないかと思わせる。ジャックする図書館のシーンも、見事なロケ地を探し出し、物語の舞台としてはまたとない場所をつくり出している。長年、映画にしろ、舞台にしろ、彼の作品を観てきた人間としては、この彼の愛すべき物語にどう決着をつけるのかが関心であったが、見事な映画としての終わりも用意していた。剣持とその相棒である漆原聡(岡山天音)、そして新たに加わる新見晴(レイニ)、このトリオの新たな物語を期待したい。
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