MasaichiYaguchi

FUNNY BUNNYのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

FUNNY BUNNY(2021年製作の映画)
3.5
飯塚健さんのオリジナル戯曲を自ら監督し、中川大志さん主演で映画化した本作は元々演劇だったこともあり、登場人物たちが発する一つ一つの台詞や、やや現実離れしたストーリー展開によって浮き彫りにされたテーマが寓話的に心に響く。
舞台の方は「現在」「2年後」「4年後」という構成だったらしいが、映画版は大きく二つに分かれ、自称小説家の主人公・剣持聡の学生時代と現在に纏わるエピソードと、この剣持が持つ自殺志願者を見分ける能力で助けた菊池広重を巡るエピソードで構成されている。
いずれにしても二つのエピソードを牽引するのは、「世界を救うのはいつだって、想像力」だと豪語する剣持なのだが、彼は弱っている人、ピンチになっている人を見ると放っておけない、そして救う為なら犯罪紛いのこともしてしまう一癖も二癖もある灰汁の強い人物。
中川大志さんは、現在上映中の「碎け散るところを見せてあげる」でも正義感の強い主人公を演じているが、その濱田清澄と比べると本作の剣持聡は「ダークヒーロー」と呼べるような“危なっかしさ”を持つ。
その“危なっかしさ”は二つのエピソードで遺憾無く発揮される。
一つ目は親友の漆原聡とウサギの着ぐるみで閉館間際の区立図書館を或る目的で襲撃してしまう。
何故銀行のような金融機関ではなく図書館なのか、そして何故その日に襲撃しなければならなかったのかが、その展開と共に紐解かれていく。
そして二つ目はラジオ局に乗り込んで電波ジャックする事件を起こす。
何故剣持をリーダーに「ラジオ局電波ジャック」したのか、その目的は何なのか?
この二つ目のエピソードには、一つ目のエピソードの登場人物である服部茜が深く関与していて全く無関係な話ではない。
二つのエピソードには夫々隠された謎があり、友情を巡る悲しく切ない真実がある。
人は深い悲しみから立ち直るには時間が掛かる。
でもいつかは悲しみと向き合って受け止め、前に向かって踏み出さなければならない時がくる。
そんな手助けを本作ではウサギたちがしてくれているように見えます。