カツマ

モンタナの目撃者のカツマのレビュー・感想・評価

モンタナの目撃者(2021年製作の映画)
3.9
暴炎が殺意のように追ってくる。忍び寄る足音と絶望的な獄炎。絶体絶命な状況に追い込まれた目撃者たちに待ち受けていたのは、モンタナの雄大な自然のような猛威だった。それでも彼女たちは煙の中を突き進む。そう、逃げ続けるだけでは未来は開けないと、二つの傷ついた心はきっとどこかで悟っていた。

名作『ウィンド・リバー』の成功もあり、脚本家としてだけでなく、監督としても確固たる評価を手にした感のあるテイラー・シェリダン。彼の監督作としては3本目にあたる本作は、モンタナの大地を舞台にした異色のサスペンススリラーとなっており、原作はマイケル・コリータの小説『Those Who Wish Me Dead』から取られている。脚本の名手シェリダンはもちろん、コリータ自身も脚本に名を連ね、山火事と暗殺者、両方の恐怖に立ち向かう物語を見事に編み上げてみせた。アンジェリーナ・ジョリーが11年ぶりにアクション映画で主演を務めたことも大きなトピックの一つだろう。

〜あらすじ〜

森林消防隊員のハンナ・フェイバーは、直前の山火事で逃げ遅れた人たちを助けられなかったことで大きなトラウマを抱え、消防部隊を離れ、一時的に山小屋の監視員に配置換えとなった。それでも無茶な性格は変わらずのハンナは、友人の保安官イーサン・ソーヤーに嗜められるも、それも彼女の余裕のなさの現れのようでもあった。
そんなイーサンのもとに友人のオーウェン・キャサリーから不穏な届が寄せられる。オーウェンは息子のコナーと共に逃亡中であり、何者かに命を狙われる身となっていて、身を隠すため、イーサンの家へと急いでいる途中であった。だが、オーウェンは家に到着する前に暗殺者のブラックウェル兄弟によって射殺され、息子のコナーは父親の死を目の前で目撃してしまう。命からがら逃げ延びたコナーは、小川に沿って歩くうち、山小屋の近くにたどり着き、そこで偶然にもハンナと出会うことができ・・。

〜見どころと感想〜

今作は秘密を知ったコナーを消そうとする暗殺者からの逃亡劇と、山火事の恐怖をドッキングさせるという離れ業が炸裂した珍しい作例である。ただ、本筋は暗殺者からの逃亡とそれの撃退が主目的なので、物語としては非常にオーソドックスで分かりやすい。登場人物も少なく、後半は特にメインキャラクターに絞られて物語が進むため、ハンナたちと暗殺者兄弟のバトルに照準を合わせて楽しむことができるだろう。

主演のアンジェリーナ・ジョリーは元々アクション映画の経験は豊富だが、同時期に公開の『エターナルズ』と同様に、強さの中に繊細を宿す役柄が合うようになってきている。他にも悪役の方が似合ってしまうニコラス・ホルトや、『ウォーキング・デッド』など人気作品への出演も豊富なジョン・バーンサルらをキャスティング。とりわけ力強い役柄だったのが妊婦のアリソン役を演じたメディナ・センゴアで、完全に初見の役者さんながら自分の中で大きなインパクトを残した。演技面では子役のフィン・リトルの演技が素晴らしく、目の前で父親を殺される、というヘヴィな役どころを見事に演じ切った。

やはりテイラー・シェリダンはサスペンススリラーとの相性が良く、暗殺者が子どもを追いかける、というシンプル過ぎる設定を広げる展開が非常に上手い。そこに主人公がトラウマと対峙する対比を盛り込み、悲劇的な過去を乗り越えるためのテーマを作品全体に張り巡らすことに成功した。映画のポスター同様に全く派手さはなく、アンジーメインの作品なの?という誤解を招きそうだが、骨太なサスペンスドラマを期待する人にはハマる一本かと思う。山火事の恐ろしさも含めて『オンリー・ザ・ブレイブ』あたりとの共通項も見出せそうな作品でした。

〜あとがき〜

あまりにもポスターが地味なので、アンジー推しのドラマ映画かな?と思いきや、脚本の名手テイラー・ジェリダン作品ということもあり期待を込めての鑑賞です。基本的に脚本にシェリダンの名前が入れば駄作にはなりづらいので、今作もクライマックスまで高い没入感で鑑賞できました。

邦題タイトルがあまりにも設定そのまま過ぎて微妙ではありましたが、山火事という特殊な状況下でのオーソドックスなサスペンスドラマ、という大枠は問題なく機能していたと思いますね。
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