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カビリアの夜のKuutaのレビュー・感想・評価

カビリアの夜(1957年製作の映画)
4.2
娼婦であるカビリア(ジュリエッタ・マシーナ)の孤独は壁やガラスの影に現れる。

手品ショーのステージに上げられた彼女は、スポットライトを浴びて影を強くする。奇術師は「道」の天使と対照的に、悪魔の格好をしている。

スポットライトは映写機の光を模している。催眠術に掛かった彼女は「スクリーン」に向かって演技を始める。劇中劇で虚実が曖昧になり、最後は幕まで降りるという「8 1/2」のような不思議な空間。妄想に集中するカビリアからは、道化として生きるしかない人間の悲しさと滑稽さが感じられる。

だからこそ、映画の最後に見せる道化の表情が強烈な印象を残す。周りはクソみたいな狂乱の世界、そこで死にたいほどの孤独を味わってもなお、黒い涙を流して歩いていく。

世界の上下がひっくり返るオープニング。川に落ちる死の世界と、天にいる聖母マリアの対比。ホームレスは地下に住んでおり、金持ちの役者は二階に住んでいるため、カビリアは地下に堕ちる事を恐れる。裸足の巡礼者に対し、信仰に頼り切れないカビリアは靴が片方無い。

過去の男を焼き払う炎、礼拝で灯す小さな火はカビリアの心境か。溺れて死にかける冒頭、最後の湖、夜の雨、プロポーズを受ける前に水を飲む演出=水は彼女に訪れる苦難の証?

夜になると着る黒い衣装と黒い傘。昼間はボーダー柄で中間にいる事が多い。嘘と本音が交錯するラストの森は、光と闇が混在。「羅生門」を思い出す。最後に暗い夜道を歩くものの、白い花は握りしめたまま。

俳優と踊る場面、男を無視して謎のソロパートを始めたのに笑った。何度も手足を伸ばして、画面一杯に走り回るジュリエッタ・マシーナのアクションが、時にコミカルで間抜けにも見えるが、必死で生きようとするカビリアのキャラクターをまさに「体現」している。84点。
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