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偶然と想像の8637のレビュー・感想・評価

偶然と想像(2021年製作の映画)
4.2
確かにこれは「偶然と想像」だわ、ってなった。
"奇跡"なんて綺麗事なものでもない。偶然とはつまり興奮。偶然を幾重にも重ねて、観客に映画的興奮を起こすシチュエーションに巡り合う。そして監督はわざとなのか、想像する余地を作らせる。時間の経過は謎を生む。しかしその演出法にすら自分は興奮していた。
40分に凝縮された"運命への道筋"を三度楽しめる逸品。傑作。

「魔法(よりもっと不確か)」
その場所の空気から、例えば"森田さん"が何を想像したのか。出会いという偶然は流れに乗ってとんでもない泥沼を寄せ付けるかもしれない。それはとても爽やかで、観客からすれば驚異的。
「人の好きは人を幸せにしてなんぼ」が惹かれた言葉であったが、これも本心なのかは解せない。誰かの魔法の為の、誰かの不幸。濱口竜介監督という男が描いたのは、惑わせる女の醜さだった。

「扉は開けたままで」
こちらは言うなれば"悪気なく惑わせる結果となった女"だった。偶然は酷い運命すら連れてくる。
3本の中のベストショットは、朗読する彼女をずっと見つめている渋川清彦の構図であった。彼は非人間的すぎる。どこまでも無感情なのが自己防衛ですらない。言葉を連ねることによって起こる興奮が誰かにとっては勃起と同義。もしかしたら"偶然"って"興奮"の為にあるのかもしれないと思わせてくれた。

「もう一度」
少し前、とある方からストーリーを伺った事があったのがこの作品だった。
災禍の中で営まれる"普通"は映画の中では映える事はないが、脚本の面でぶっ飛んだ興奮を入れ込んだこの作品にはひれ伏すしかない。自然と演技が始まる空間に間違いなく僕は試されていた。

こうやって語れるほどに観入ってしまったのは、観た後も隔たってしまうような特別な重厚感や、大胆なカメラワーク、また、言語化できない未決定の領域にあるものを言葉にできる素晴らしさのおかげでもある。どれだけ語っても語りきれないから、何度も繰り返し観てディテールに気付きたい。


追記:自分にとっては、大人になってからはハラスメント問題の事にはちゃんと気をつけようと思わせてくれる作品でもあった。第2話のような出来事があれば、終わってしまう。
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