涼

偶然と想像の涼のレビュー・感想・評価

偶然と想像(2021年製作の映画)
3.9
 短編集と言うが、3作とも中編という感じで、それぞれ見応えがある。 

 インタビュー記事を7本ぐらい読んだが、どれもインタビュアーの視点が違い、語られる内容が異なる。普通の映画のインタビュー記事ではどの質問も答えも同じで、読むと飽きてくるのだが、これは違う。
 作品内容が多義的であるから、いろんな視点から捉えることが出来るのだろう。
 また、濱口監督の映画の捉え方、向き合い方の根底に深い思想が流れているのを感じ、どこまでこの人は考えているのだろうと、畏敬の念を抱かざるを得なかった。

 そのインタビュー記事の中で、濱口監督の印象的な言葉をいくつか挙げたい。
「演劇に映画で迫ろうとしている」
 確かに長回しが多く、会話も文語体だったりする。登場人物が少なく、会話が延々と続く。だからといって飽きることは全くなく、スリリングなところは演劇に似ている。

「役者の身体とテキストの間に起きる偶然を捉え続けることに興味を持っている」
 監督は、感情を込めない本読みを何度も繰り返すことで知られる。
 セリフが俳優の体に入ったら、本番は俳優に任せるという。自分が書いたセリフであっても、予想外の俳優の動きに驚かされることを楽しみにしているのだろう。
 監督や見る者の「想像」を超えた「偶然」の連なりは、一つの「事件」である。
 その「事件」に遭遇して、見る者はただただ驚く。そして、その後あり得ないものを見た喜びを感じるであろう。
 俳優にとってこのメソッドは、相手の予測不能な演技に驚きを持って反応することになり、これまで到達したことのない境地に到達するのではないか?

 キャスティングに関しても、意外性に満ちたものである。
 古川琴音は子供っぽく見えるのに、悪女っぽい役だ。
 渋川清彦はこれまで見た中では、ヤクザっぽい役かお人好しの役かの2極で、大学教授は初めてだ。でも合っていて、どこかユーモラスなのもいい。
 森郁月は初めて知ったが、エロいのと純な感じが共存していて、なかなかいないキャラクターに説得力を与えている。

 三話とも「有りそうで無かったなかったものを、無さそうで有る」ものにする試みと言えるが、第3話は少し無理があるように思える。
 レズビアンの夏子(占部房子)が好きだった同性の同級生の顔を20年経って見誤る、ということがあるだろうか?この無理な設定の中、二人の俳優の演技は嘘くさくないレベルには達しているが。

 濱口作品の長編は思弁的だったり、3時間以上だったりと、ついて行けない人もいると思われる。
 それにひきかえ、この短編集はそれぞれ一つのエピソードを基にしたドラマなので、見やすく、娯楽要素も増えているように思える。
 なので、より多くの人が楽しんで見るだろう。

 濱口監督にとっては、短編と長編は相互に良い影響を与える関係なのではないか?
涼