赤ちゃんパンダ

偶然と想像の赤ちゃんパンダのネタバレレビュー・内容・結末

偶然と想像(2021年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

これまで濱口監督が数時間かけてやっていたことを、数十分でやっているのだけれど、その上質さがやばい。
濱口作品のうわあってくる瞬間を、一時間足らずで構築してもってくるのがすごいし、映画がはじまってすぐに登場人物たちを観客にぐっと近づけるのが本当にうまい。

3話目は「天国はまだ遠い」 を彷彿とさせた。
全体を通してちょっとロメールの青の時間とかをふくむ短編集や格言シリーズ?を思い出したけどちょっとちがう気もする(どちらがいいとかでなく)。チェーホフの戯曲とかももうほとんど覚えていないけどどこか連想させた。

1話めの、夜のオフィスのシーンで、セットされた髪の毛がぶわっと乱れたのすごくいいシーンだったな。全編とおして、瞬間最大風速は私のなかではあのカット。
タクシーのなかで、特別な時間を過ごしたと話すぐみちゃんもよかった。
私は、やっぱり人がだれかといて、「特別だ」 と思う瞬間に、映画や小説を通して遭遇したいんだなあと思う。

2話目の接吻も、映画ー!!という感じがすごい。
2話目と3話目は結構笑いながら見た。

いちばん沁みたのは3話目だった。すっとぼけたおかしさもありつつ。人生、「かつて親しかった人」 ばかりが増えていく気がして、生きることそのものにさみしくなったりもするけれど、もう二度と会うことのない人や、名前も忘れてしまった人が、自分の人生の背中を今でも押してくれたり、なにかきらめきのような支えになったりすることってあって、わたしもだれかにとってそうなのかもしれない、という気持ちになれた。
最後まで、主婦の彼女がもしかしてうそを付いてるんじゃないかと思わせるサスペンスな時間が流れるのがすごい。夫が帰ってきたり、帰宅途中の夫と遭遇したりして、ほんとうの下の名前で呼ばれるんじゃないか、とか。

濱口竜介は今まで観たなかでは親密さがいちばん好きなんだけど、最初に見た親密さがすごくよくて(当時好きだった人と見たという思い出つき。北千住のブルーなんちゃら?で)そのとき映画を見た気持ちを上書きしたくなくて親密さはまだ一度しか見れないでいる。久しぶりに見返したいな。
そのときは、親密さも国内で片手で数えるくらいしか上映してなかったときで、かなりレア作品扱いだったのが、こんなにいろんなところで見れるようになるなんて!、と思う。
これからの活躍が楽しみ。
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