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偶然と想像のroppuのレビュー・感想・評価

偶然と想像(2021年製作の映画)
4.0
この人の映画、根っこから優しい(泣)

『ドライブ・マイ・カー』が初めての濱口竜介作品、今作が2作品目なのだけれどテーマが似ている、と言って良い。世界を俯瞰した、不器用な人間のコミュニケーション。
社会で上手くやっていけない僕にとっては、馬鹿らしい小説、演劇地味た棒読みがよく心に刺さる。

むしろダラダラ話されるからこそ、言葉の意味にズタズタ引っかかる。ユーモアがあるからこそ、改めて、ゆっくり拾っていける。


1話目、もっと勢いよく撮ったらゴダールみたいになっちゃうんじゃないか的なエキサイトメント、これはロマンチック。確かにエロい。
急にやるズームインとか映画の楽しさそのもの。
3話目にも通ずる、あのときこうしたら、あのときこうだったらの『想像』それ自体。
幼少時代には誰にでもなれたはずの僕たちが、いつの間にか社会によって誰かになってしまった、ならざるを得なかったことの虚無感、というと話を盛り上げすぎだけど、別れや出会いにおける選択肢、そしてそれを司る他者とのコミュニケーションの引き出し合いが面白い。

2話目、PTSDか劣等感丸出しの、誰かにすがることによってでしか誰かになることができなかった人間の偶発的な出会い、数奇な経験だからこそ愛おしい。愛しかない。
こんなユニバーサルな人間の問題を、軽いユーモアセンスで描く監督の挑戦に救われた。
3話中では最も好み。

3話目、題材としてはキアロスタミの『トスカーナの贋作』的なアプローチ。
人間が如何にパフォーマティブな動物か、ということへの問い、回答、またはその間とその隠喩。
言葉は余りにも暴力的(ファシスト的)だから、分かり易すぎる会話には(映画では特に)要注目なんだけれど、この出合ったばかりの人間たちから何が引き出せるか。深く掴みあった手と、柔らかい、優しく運動する指が言葉よりも大袈裟に隠喩する。
ネットなんて、本当にこの『想像』のようになくなっちゃえばいいのに。
システムが、共同体を凌駕してしまわないうちに。不器用で、ぎこちない奴らが、社会から見えなくなるまで追いやられてしまわないうちに。
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