くらげ

対峙のくらげのレビュー・感想・評価

対峙(2021年製作の映画)
4.8
「心が揺さぶられる」とか、「感動する」とか、レビュー書くときに割りと気軽に使うけど、本当に心が動くほどの衝撃を受けたのは初めてかもしれない。

教会の一室で銃乱射事件の被害者家族と加害者家族が会って話す。ほぼそれだけの内容。

前半は重苦しい。
最初は「責めるような事を言ってはいけない」と妻を制していた被害者父が加害者父をガンガン責め始めて加害者両親が気の毒になってしまい、どうしよう、被害者側に全然同情できないんだけど、私これで合ってる?と不安になってくる。

しかしある一言から空気がガラッと変わり、のしかかっていたものがフワッと軽くなり涙が溢れた。
こんな体験は初めてだった。

対談が終わって教会のスタッフと話しているときに賛美歌の練習が聞こえてきて、被害者夫婦と共に癒やされ、神様って本当にいるのかもと思ってしまった。

教会スタッフが部屋の準備をするところから始まって、このシーン必要?って思いながら見てたんだけど、このためだったのか。

このあとまだ少し話が続きますがネタバレしないほうが良いと思うので書きません。


アフタートークの坂上香さんのお話で、話して話して話して、とにかく話して行くことで自分の中のいろんなブレーキが外れて、自分も知らなかった本当の言葉が見つかる事がある。それが対話の力で、それを利用した修復的司法というものがあるということを知った。
日本では難しいと言われていたその修復的司法を使って坂上さんが撮ったドキュメンタリー映画が『プリズンサークル』。

ジャーナリストの金平茂紀さんが、教会が身近な存在ではない日本ではこういうのは難しいというようなことを仰っていたが、坂上さんはできないと言われていたけど実際にやってみたらできた。場所はどこでもいいと仰っていた。

この『プリズンサークル』、当時職場で話題になっていて、しかもその頃ユーロスペースのすぐ近くで働いていたにも関わらず見逃していたので、どうにかして観なければと思った。

銃乱射事件の具体的な映像などは一切無く、センセーショナルな描写は殆どない。ほぼ部屋の中の会話劇で動きも殆どないのにここまで魅せられるのは驚きだった。

脚本、監督、俳優の全てのクオリティの高さ故に為せる技を堪能できる良作。
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