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秘密の森の、その向こうのAPlaceInTheSunのレビュー・感想・評価

秘密の森の、その向こう(2021年製作の映画)
4.5

施設に入居している各部屋の老婆達に、主人公のネリーが「さよなら (Au revoir!)」を言って回るシーンから映画が始まる。入居していた祖母が亡くなったので皆にお別れをしているのだ。

少しガニ股気味でぶっきらぼうにノサノサ歩くネリーの様子がアンバランスで可愛らしい。
その後、施設から祖母の家に向かう車中で、お菓子食べたいと言ってカリカリ食べ始めたと思ったら、後部座席から運転するお母さんにお菓子を食べさせ、また食べさせ、最後にジュースまで飲ませてあげる。
8歳の子供らしい無邪気さと、妙に大人びた憂いのある表情が同居するネリーの一挙手一投足に目が釘付けになる。

田舎町の辺鄙な場所にある祖母の家。そこは母親マリオンが幼少のころ住んでいた家でもあり、裏には雑木林が広がっている。家の中で退屈したネリーは雑木林で遊ぶうちに不思議な体験をすることになる。
母マリオンと同じ名前を名乗る8歳の少女と出会い、親しくなる。少女に招かれて彼女の家を訪れると、そこは母マリオンの生家であり、今ネリーと両親が亡き祖母の荷物を片付けている家だった…。

【以下、雑感】
■なるほど本作を「となりのトトロ」を引き合いに出して語る人も多いらしいが
洋の東西を問わず、奥深い森に分け入ると摩訶不思議な事が起こるもの。
(ドッペルゲンガーに出会った哲学者は多いけど、確か有名な哲学者がドッペルゲンガーに遭遇したのが森を散歩している最中だったような… 薄ぼんやりした記憶…)


■祖母の死によるショックなのか、マリオンは精神のバランスを崩し、家を出てしまう。マリオンの家出に対し、ネリーもネリーの父親も、さほど驚いた様子はない。これまでにもマリオンは精神的な繊細さからか、同じ様な事でして家族を振り回してきたのではないかと想像させる。と同時にまだ年端の行かないネリーの、ぶっきらぼうな表情が寂しさの裏返しでもあるのではないかと。

■子供の頃に何度か有った、公園や広場で会ったばかりの子と何となく遊んでいるうちに自然と仲良くなって、流れで「うちに遊びにおいで」と招かれて家に行った時の高揚感が懐かしく思い出される。
劇中の愛らしい二人の子供を観ながら、自分の子供時代を優しく抱きしめたくなる。
同時に母親の子供時代へ思いを巡らす。幼少の頃に祖母の実家で古いアルバムを開いた時に、母親の子供時代の写真を初めて見たとき。当時の母親と自分が同じ位の歳で、こんな時代が有ったんだなぁと当たり前の事実に妙な感慨を覚えた。
母親も、自分と同じように夕方遅くまで夢中で遊んだり、親に怒られて泣いたりしたのだと云う事実。勝手に母親の子供時代を懐かしむような感覚。
そんな不思議な気持ちになる映画体験でもあった。


言葉にしてしまうと、すぐに壊れてしまいそうな繊細な感情が籠った作品。引越しするとしてもずっと手元に置いて置きたい短編小説のような優しい作品だった。
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