メラ

アンラッキー・セックス またはイカれたポルノのメラのレビュー・感想・評価

4.9
【"卑猥"で暴露される猥雑でノイズまみれの矛盾思想】
■あらすじ
ルーマニア、ブカレスト。名門校の教師であるエミは、コロナ禍の街をさまよい歩いていた。夫とのプライベートセックスビデオが、意図せずパソコンよりネットに流失。生徒や親の目に触れることとなり、保護者会のための事情説明に校長宅に向かっているのだ。しかしそこにはブカレストの街を漂流するかのように、エミの歩く姿が映し出されるだけだ。彼女の抱える不安や苛立ちは、街ゆく人々も共有する怒りと絶望であり、さらにはその街、引いては世界の感情そのもののようであった。猥雑で、汚れ、怒りを孕んだ空気が徐々に膨れ上がっていく…。

■見どころ
シアター・イメージフォーラムで監督<自己検閲>版、JAIHOで無修正版を鑑賞しました。
率直に言って凄く面白かった!

ジュデ監督作品の中でも最も自由度の高い映画構成で、セックスビデオの流出されたことで危機的状況に陥った女性を喜劇・悲劇に描きながらも、様々な挿話が施されている。
本作が素晴らしいのは構成に散りばめられた様々な記号が終盤へ進むにつれて徐々に共鳴し合って様々な回答を見せる姿にある。
すなわち人々の「思想に一貫性がない」、「社会の中でのコミュニケーションには二面性が存在し時には一方向に進まない」を暴露して、「人には何かしら気持ち悪い一面を内包し、それを常に仮面(マスク)を付けることで"気持ち悪さ"を隠して生きている」を伝える姿にこそ凄みがある。

●第一部:一方通行の通り
開幕にド生々しいセックスビデオでスタートし、喧騒したブカレストの都会・ブカレストの人々の営みをワイズマンのドキュメンタリー映画風に描かれる。

表層はプライベートで撮られたセックスビデオが流出されて慌てふためきながらも日常を過ごすエミを描いている。
けれども既に本作のメッセージ性はエミと関わる人々、街の中で顕になっている。

着包みをまとった人物の休憩中にイジられた事への暴言、淑女と思われる女性の爆弾発言、日本の特攻隊「神風」に対する大学生たちの議論、唐突に受けるナンパ…など、第一部では「一方通行のコミュニケーション」が散りばめられていて、会話のドッジボールがエミの関わる場所やそれ以外でも行われている。

印象的なのは自動車に乗った人々かな。初めは落ち着いた口調でいたドライバーが段々と口が悪くなり、最終的には猥雑な喧嘩に発展する。他にも交通ルールを破って、それを注意した歩行者にキレて車で轢く姿もある。
正論を伝えて自動車側が悪いにも関わらず、それを正当化したり攻撃的になる姿に本作のメッセージ性が孕まれていて第三部に向けた布石として見事に機能しているのが良かった。

そう、この時点で社会の有り様を描いているのだ。喧騒したブカレストの街そのものにコロナウィルスの疫学的な感染と同等の「矛盾思想」が蔓延している。

そのコミュニケーションの有り様をドキュメンタリー映画風に捉えて次へ繋げる構成が明確なストーリー展開が無いけど緊張感を与えてくれて、素晴らしかったです。

●第二部:逸話 兆候 奇跡の簡易版辞書
ジュデ監督がチョイスしたエッセイフィルムを切り抜いてランダムに繋いでいる。

「軍隊」「真実」「先住民」「子供」「無意識」「フェラチオ」「愛国心」「クリスマス」「人種差別」「ヴァギナ」「愛」「モンタージュ」「ペニス」「自撮り」「映画」「ソーシャル・ディスタンス」「ポルノグラフィー」「フランス革命」「ロボット」「正当化」「ルーマニア人正教会」…など、真面目な話から猥雑な話までを一つのストーリーにねじ込んでいるのが特徴的だ。

閑話休題の章と思わせておいて、第一部と第三部を繋げるキーアイテムになっているのが第二部の面白い見どころに感じました。
例えば「人種」シーンでは白人と先住民が並ぶ写真を映されるが、そこには「ゴミになる」という不穏な言葉が添えられていたり「映画」シーンではメデューサ神話が引用され「真実の不可視性」という本当の真実を間接的な形でしか見れないと主張している。
その他にも「正当化」で豚は神様が人間に食われる為に生まれたと子供に説得する父親を映したり、「クリスマス」では祝うために軍隊がロマ人・ユダヤ人を殺す字幕が挿入されている。

ランダムに切り抜きされた映像にこそ「社会の中で見える情報は多面的だけど実際には一面的に認識されてしまう」「様々な事象の中には支配-被支配の関係があり、支配側の身勝手な正当化が含まれる」を如実に表していて、第一部と第三部の主題と共鳴する機能性もある構成が素晴らしかったです。

JAIHOで配信された「アーフェリム!」では支配階級、「野蛮人として歴史に名を残しても構わない」ではレイシズムを皮肉ってるが本作では過去二作のテーマを踏襲しつつも現代社会にまで拡大した社会風刺に昇華していると感じました。

●第三部:実践とほのめかし
様々なデザインのマスクを付けた保護者と校長らがエミを異端審問にかけるお話。

プライベートセックスビデオを上げたのはエミか?から始まり「名門校の教師なのにこんな事をしてあり得ない!」「子どもたちに悪影響だ」と糾弾し激詰めされるが…

まず異端審問と銘打っているが本質的に第一部のブカレスト都市部と何ら変わらない姿を描いている。
プライベートセックスビデオの詳細を問い詰めるはずが次第に保護者側は「セックスしてる夫の下半身・人格否定」「性ってそもそも何が悪いんや?」「あの動画が愛の営み言う割に旦那にすげー卑猥な事言ってるやん草」「あのセックスは微妙だねとのマウント合戦」…と本筋から逸れ始め、反ユダヤ主義・反同性愛主義・学校教育とキャリア形成と脱線をしまくる。

エミ自身も「子供に悪影響を及ぼすのはてめーのネットリテラシーにも問題あるやろ」「法的には合意あるなら問題ないでしょ」「そもそも性を悪いものとして扱うのは違う」と反論するのも相まって収集が付かなくなる。

異端審問であるはずが脱線しレイシズム、性と官能の違い、セクシズムへ拡大していくが、一貫して会話がキャッチボールからドッジボールに変わる・茶化したり茶々を入れる・野次や叫び声が交じっている。

これこそ第一部と本質的に変わらない事を示しているのだ。
保護者は戦闘態勢でエミを激詰めするがマスクに様々なデザインがあるように様々な攻撃性を見せている。
一見すると子供を守る保護者として描かれるが、賄賂を渡してロマ人の優先枠を蹴落として裏口入学させたり、エミを養護しつつもヌードビーチは合法だぜと校長にまで飛び火したりする。
この言われもない事、心無い事、更には擁護する人物にまで飛び火する現代社会の目に見えない・匿名だから好き勝手に言える構図をマスクを使って組み上げた所が素晴らしかったです。

本作ではマスクは人々のペルソナ・二面性を表している。
しかし、保護者グループでエミのセックスビデオが拡散されたり、マスコミには内密にしろと言ったのにマスコミに流す保護者もいる姿はまるでSNS・インターネットでの凶暴性をも見せている。
Twitterで不祥事を起こした人物に対していきなり第三者から心無い暴言を浴びせるのと変わらなず、宗教信者・パイロット・牧師・移民など様々な役職のガワを被っていながらも攻撃する姿勢は本質的に変わらない事を示唆し、更には「根拠のない憶測まじりの偏見で語る」というのを身元を明らかにしないSNS/ネットユーザーと重ね合わせるようにマスクでアイコン化するのは面白い演出だと感じました。

●まとめ
セックスビデオに対する異端審問する姿を通じて「現代社会の一方向の攻撃的なコミュニケーションが蔓延している」様を表現した本作はその先に3つの回答を示している。

その演出も型破りで面白いけど、見事なのはこの映画を喜劇で〆ているところだと思う。
第二部の「映画」で様々なキーアイテムを提示するが、これらが共鳴して「セックスビデオが流出した教師の行く末を壊そうとする人々」に対して「性」から「コロナ渦の閉塞感」「閉鎖的なコミュニティによる村八分」へ、更には「人類の身勝手な正当化による差別」「社会には一方向のコミュニケーションが雨のように降ってくる」まで拡大していく。

本作は「セックス」を題材にはしているけど本質的には「人のコミュニケーションでの身勝手さ、二面性、狡猾さ」という「グロテスク」に昇華していて様々な話題にまで汎用できるメッセージ性に昇華させている。
そこがベルリン国際映画祭で最高賞を取った所以だと思うほど構成が素晴らしかったです。

そして人類の歴史で育まれた「コミュニケーションのグロテスクさ」というのが第二部「映画」メデューサ神話でいう「真実を直接見るには惨いから間接的にしか見れない」こと、各キーアイテムの挿話されたナレーションにある偏見とも一致し、監督の「だからこそフィクションを撮りたい」に繋げているのも見事でした。

結局、そういった高尚なロジックの積み上げもあるかもしれない。
はたまた高尚な主張の身勝手さ(「性」で男女・宗教思想で考え方が異なる、「エロ」は駄目で「セクシズム」「レイシズム」はOKなのおかしくね?)を混ぜて映画はフィクションなんだし人生は悲劇と喜劇を含んでる、議論したってくだらねーwといってディルドを保護者のマスクを貫通して「コロナなんてクソ喰らえ」と言わしめているかもしれない。

そんな映画でした。

今でも統一教会、反ワクチン、フェミニズムのネット論争を見ると本作と重ね合わせられる一面を感じさせ、ポスト・トゥルースによる印象操作・一個人の人生を棒にふってしまう姿はこうだろうなと思いました。まぁ最終的に棒持って鉄槌を下してるんだけどさ。


映画自体は観てて面白かったし、定期的に思想のコアを覗いて「うわグロすぎw」と再認識する意味でJAIHO登録して観るのはいかがでしょうか?

個人的にJAIHOはモザイクが消えちゃってるのでメデューサ神話でいう真実を直接見る羽目になっているとは思うけど、こっちもこっちで生々しくて味わいがあって良いですよ。


P.S.
本作のメッセージ性は共感出来るが、実はTwitterでこれと似たような事象がバズっている。
先見の明あると思うし、今も昔も変わらないのね。

"こないだ奢りにきた超高級ソープ嬢が「その人の1番気持ち悪い部分を見るのが私たちの仕事」「社会でどんなに褒められるような立場にいる人にでも、かならずといっていいほど気持ち悪い部分がある」「みんな一生懸命に気持ち悪い部分を隠して生きてる」「みんな違って、みんなキモい」などと言っていた"
https://twitter.com/taichinakaj/status/1076063595299975169?s=20&t=EwaJWQlYXxlaj7OpHUwuew