空海花

やすらぎの森の空海花のレビュー・感想・評価

やすらぎの森(2019年製作の映画)
3.8
ケベックの女性作家ジョスリーヌ・ソシエの原作小説に感銘を受け
同じケベック出身のルイーズ・アルシャンボー監督が同郷の名優を迎えて映画化。

舞台もやはりケベック州の、人里離れた深い森。
湖の畔の小屋で3人の高齢の男性が密かに暮らしていた。
絵を描いたり、ギターを弾き語りしたり、
湖に浮かんでみたり。
愛犬と一緒に🐕
緩やかで静かで平和そのものの時間。
自然はやすらぎを与えてくれる。

そこに2人の女性がやってくる。
女性のうち1人は写真家で、この森で昔あった、大きな山火事の生存者を取材している。
そして、もう1人の80歳の女性こそが物語の中心となる。
彼女は60年もの間、精神科の療養所に入れられていた。

のんびりゆったり…
切なくも癒される映画かと思いきや
重く、問いかけてくる作品。
静けさはむしろそれを深くする。

彼女はここで、彼らとともに、
マリー・デネージュという新たな名前で新しい人生を踏み出す。
演じたのはアンドレ・ラシャペル。
本作が女優引退作であり、遺作となる。
物腰は柔らかく、優雅でピュアなおばあちゃん。
人生、生命の輝きを魅せる演技は手を合わせてしまった。

原題“Il pleuvait des oiseaux”
英題“And the Birds Rained Down”
「そして鳥の雨が降る」
この意味がわかってきてから、
物語の本質がわかってくる。

いつからだって遅いということはない。
とは言っても、80歳という年齢を考えると、とても胸が苦しくなる。
一方で、訳あって世間を捨てたとしても
心を開けば光が射し込むこともある。
そんな希望もある。

人間は尊厳を求める。
どう生きるかは、どう死ぬか。
自由か、自然か、愛か。

マリーとチャーリー、トム、ボイチョク
それぞれの人生に思いを馳せる。
彼、彼女たちの人生はそれぞれ異なり
その衝撃を、受け止めきれなくなる。
ホテルを営む青年も良かった。
キャンバスにボイチョクが描いた意味。
過ぎゆく時
時が来る
time.time.time...


終幕し、ズシンと重い何かを抱えながら出てくると
スペースに年配女性のグループがいらして談笑していた。
皆さん晴れやかな表情をしていて…
長生きっていいな!と無性に思ったのでした。


以下、ネタバレ含む感想を⚠️



撮影の数ヶ月後、アンドレ・ラシャペルは癌が見つかり、その1年後に尊厳死を選んだというのに驚く。
彼女はその前に夫の闘病に付き添い、
3年のブランクがあった。
映画に出て、人生を取り戻した気持ちになったというのを監督に話したというのを監督のインタビューを読み、震える。

80歳で性の悦びを初めて知るということ(体験という意味ではない)の衝撃は哀しくて
瑞々しさまで感じさせるラブシーンの美しさ
これが同時に押し寄せて、放心した。

トムの選択は、尊重したい。

エンディング曲の歌詞にも考えが止まらなくなった。


2021レビュー#112
2021鑑賞No.211/劇場鑑賞#20
空海花

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