カツマ

鳩の撃退法のカツマのレビュー・感想・評価

鳩の撃退法(2021年製作の映画)
4.0
悲劇にも似た真実。それはフィクションを模したノンフィクション?それとも、もっと別の魔物のような何かなのか。煙は焚かれ、その結末すらも計れない。だからこそ、物語を読み進める手は止まらないし、手玉に取られるように運命の流転は惑う。それは偶然のような必然なのか、鳩の撃退法の本当の意味とは何か?

古くは『永遠の1/2』『リボルバー』、90年代後半頃には『Y』や『ジャンプ』といった一風変わった作風の小説を発表してきた佐藤正午による、近年の代表作『鳩の撃退法』を映像化した作品である。雄大な山々がバックにそびえる富山県を舞台に、藤原竜也を主演に迎え、嘘のような本当のような?はたまたやっぱり嘘のような荒唐無稽な物語が滔々と語られ、鑑賞者を迷路に侵入させては出口を探究させるような作品を作り上げた。元直木賞作家の新作に隠された謎、それはいくらページをめくっても簡単には答えを用意してはくれなかった。

〜あらすじ〜

元直木賞作家の津田伸一は、もう何年も新作を発表できず、現在は富山県のとある街でデリヘルの運転手の仕事をしていた。借金取りにはボコられ、本屋のオヤジには三万円の借金をしている彼には、新作を発表する雰囲気は見受けられず、その夜も一万円札を栞にして、古本屋で買ったピーターパンの本を夜のカフェでダラダラと読んでいた。そんな彼の目に止まった男が一人。彼は幸地秀吉という名前で、仕事はバーのマスター。いつもそこで読書に耽っている彼を見て、その夜、津田はたまたま声をかけてみることに。すると、彼は今度そのピーターパンの本を貸してくれないか、という言葉を残して、それ以降消息を絶ってしまう。いや、消息を絶っていたのは彼だけではなく、彼の妻と娘も同様に姿を消していた。その背後にはどうやら倉田という男の影があって、それは津田をボコりにきた借金取りの親玉のようでもあって・・。

〜見どころと感想〜

かなり複雑怪奇な構造を持つ物語である。原作の尺を短縮し、設定を脚色、それによって不可解さに拍車がかかってしまっているイメージは確かにある。とはいえ、どこまでがフィクションでどこまでがノンフィクションなのか、という最大の問いかけは機能しているため、流されるようにその群像模様を楽しむことができるだろう。繋がるとは思えない線が強引に交わってくる展開も最高。ほぼ全ての人物が物語に関わってくるため、細かい伏線が多く、常に油断は禁物だ。

主演の藤原竜也は舞台上での演技を想起させるような芝居を見せ、主人公としてのインパクトで映画の看板を見事に引っ張ってみせている。他にも編集者役に土屋太鳳、倉田役に豊川悦司などを起用。一際、異彩を放っているのは、失踪するバーテンダーを演じた風間俊介の奇妙な存在感だろうか。また、『孤狼の血2』でも思ったが、西野七瀬は役柄の色に染まりやすく、今作でも良い演技をしているように感じた。元アイドルでありながら、普通人としての雰囲気を出し入れできる点は、今後も映画界で重宝されそうな予感がする。

とにかく登場人物が多く、多視点の群像劇という分かりづらさが今作の肝であり、魅力でもあると思う。そのため、補完的で説明的な描写が随所に見られる点は日本映画らしく、分かりづらい物語を分かりやすくしようとする努力は感じる。
そして何よりもこの映画の魅力は落としどころを想像しづらい点にあると思う。津田伸一の周囲の人々の人間関係が交錯し、どんな帰結を描くのか。激しい波下りをしているような心持ちで、その河口へと駆け足跳びで降りてみてほしい作品だった。

〜あとがき〜

謎めいたストーリーに魅力を感じていた本作が配信開始ということで早速の鑑賞です。演技の上手い役者を随所に配置出来ていることもあり、非常にテンポ良く楽しむことができました。

ただ、この原作の魅力を完全に引き出すのはやはり難題だったようですね。とはいえ、映画として面白く仕上がっていましたので、個人的にはとても満足できた作品でした。
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