緑

茜色に焼かれるの緑のネタバレレビュー・内容・結末

茜色に焼かれる(2021年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

偶然にも2日続けて永瀬/オダギリ共演作。

自己責任を被りすぎている人の話。
度を超えているため、
外部と戦うことから逃げているようにも見える。

賠償金は貰えばいい。
行政の手当ももっと貰えばいい。
よその子の養育費は払わなくていい。
序盤に嶋田が尾野を頭がよくないようなことを言っており、
人をバカにしているなぁと思ったが、
嶋田の言う通りだった。
母親がピンサロで働くことが
子に及ぼすリスクを軽視しすぎている。

バイト先を解雇されていたが、
解雇予告手当の請求はしていないようだ。
公営住宅に火をつけられていたが、
加害者を訴えることもしなさそうだ。
ピンサロの待機場所でつけていた家計簿は、
覗き込んだ片山曰く赤とのこと。
心意気だけでは近々破綻するだろう。
自分ひとりの生活でもないのになにを考えているのか。
息子の成績が良すぎることを知って
「お金の心配はしないで」と言っていた。
なぜそんなことを言えるのか。
お金ほど気持ちだけでどうにかならないものはないのに。

そもそも何故ホームセンターとピンサロなのか。
社員登用前提でもなければ、
900円ちょいの時給でバイトするよりも
派遣で1000円超えの仕事をするほうがいいし、
同じ抜き仕事をするなら
デリやソープのほうが割りがよいのでは。
賠償金や手当をもらわないことと
当人の稼ぎ方のバランスが非常に悪い。

出てくる男性のほとんどがひどい。(貶してない)
父親の交通死亡事故を終わったこと呼ばわりの、
旦那を轢き殺した老人の息子。
労働法完無視でバイトを馘にするバイト先の上司とその上司。
謎に上から目線なピンサロの客連中。
息子に暴行する先輩連中とそれをスルーする教師。
子どもの前で下卑た話をしたり
体目当てで尾野に擦り寄る死んだ旦那のバンド仲間。
離婚済み独身と偽って尾野を落とした中学時代の同級生。
暴力的なヒモ稼業の片山彼氏もどき。
8歳の頃から犯していた娘が死に
弔問に訪れた客に娘は幸せと語る片山父。

まともな神経を持っている男性は
床オナがバレても逆ギレを引っ張らず
いつも母親思いな尾野の息子と、
仕事こそやくざのフロントだけど
面倒見と付き合いが良すぎるピンサロ店長の永瀬のみ。

設定にもやもやしたり、
登場人物にイライラしたりしながらも、
これはいいぞと思えるシーンも多数。

尾野が既婚者だった同級生を刺そうとしたときに
息子が片山に連絡、
片山と永瀬が駆けつけて
ふたりで同級生をやっつけた連携プレーには
感動して泣いた。
ひとを本気で心配して、
ひとのことに本気で怒れるって素晴らしい。

片山が父親と彼氏もどきを評したときの言葉、
「でもいい人なんですけど」の闇の深さ。

母子それぞれが秘密を抱えながら
嘘をつかない約束をするシーンの空虚さ。
ここ以外でも頻繁に出てきた尾野の発言
「まぁ、がんばりましょう」に、
「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」での
片桐はいりの「はりきってね」を思い出した。
本心からの「まぁ、がんばりましょう」は
最後の1回だけだと感じた。

片山会いたさに老人ホームの不要チャリを
借りパクしちゃう尾野息子と、
ルールに固執するのに窃チャしちゃう尾野が
チャリに乗っているときに鉢合わせ。
その後ふたりがそれぞれチャリを返したのもいい。

旦那案件では敵側だった嶋田が
中学時代の同級生案件では味方側に付くファンタジー。

一番笑ったのはラストのひとり芝居。
あれほど老人慰問に不向きな演目もあるまい。
次いで、ピンサロ接客時の尾野の声のトーン。
ピンサロでの仕事風景は
「はるヲうるひと」での
置屋の坂井真紀と比べてしまって
物足りなく感じてしまったが。

気になったのは、
引っ越しだってまとまった金がかかるのに
公営住宅からどこに引っ越したのか。
と、その手前の他住民に迷惑を掛けたら
出ていかなければならないという「ルール」。
居づらくて自主的に出て行くならわかるが、
被害に遭ってそれが騒動になったときにまで
適応されるものなのか。
だとしたら、公営住宅の規約というのは
個人経営の店のオーナーの気分と変わらんじゃないか。
昔、バイト先で濡れ衣を着せられて、
誤解は晴れたのに騒動を起こしたという理由で
馘になったことを思い出させられた。

尾野が主人公なのは間違いないけど、
息子の成長譚として観たほうが
各種もやもやが薄れて後味がいい。
緑