まぬままおま

ヘカテ デジタルリマスター版のまぬままおまのレビュー・感想・評価

4.0
ダニエル・シュミット監督作品。
ずっと気になっていた作品だったのでみれてよかったです。

ヘカテとはギリシア神話の女神である。人間にあらゆる分野での成功をあたえる反面、夜と闇を司ったり、冥府神の一柱ともされている。また3つの体をもつとも考えられていたそう。それは「ヘカテーの力が天上、地上、地下の三世界に及ぶことや、…(略)…処女、婦人、老婆という女性の三相や、過去、現在、未来という時の三相を表している」(wiki参照)。このように人間に恵みを与えるとともに地獄にも突き落としかねないことや時や場所で様相が異なることは、アフリカに赴任した外交官のジュリアンが出会うクロチルドと見事に一致する。

彼女はジュリアンの運命の人か、それともファム・ファタールなのか。

闇夜に出会う彼女はジュリアンに全てを与える。まさに恵みの神だ。しかしそれによって昼間のジュリアンの仕事は自堕落なものになるし、彼はクロチルドへの愛にどんどん執着していく。そして自分の生も悲劇的に、破滅へと向かってしまうのである。ならば彼女はファム・ファタールなのかもしれない。

しかし彼女をヘカテにしてしまうのは、ジュリアンの方である。

人間は神にはなれない。ジュリアンがクロチルドを神に見立て、愛を捧げようと、彼の手元をすり抜ける様相が彼女にはある。昼間に婦人として子どもたちと食事をしたり、夫との人生、そして別の男との情事のように。
そんなすり抜ける「何か」を埋めることが愛することなのかもしれない。全てを自分の手中に収め、他者をものにすることが。しかしそれは闇を歩くがごとく際限はなく、果てには知りたくもないことや地獄が待っているだけなのである。

私たちは他者を神格化させずに愛さなければならない。私の手元をすり抜ける「何か」が他者にあろうと。

蛇足
クロチルドが昼間に老婆と重ねられて描かれるショットがあるが、ヘカテが3面3体として考えられていると知り納得がいった。しかしヘカテのギリシア神話の側面を十分に理解したとは言い難く、再鑑の必要があると思った。