滝和也

悪い奴ほどよく眠るの滝和也のレビュー・感想・評価

悪い奴ほどよく眠る(1960年製作の映画)
4.2
この時代にこの内容…
凄まじき才覚としか
言いようがない…。

ピカレスクロマンの世界
すら、黒澤からなのか…。
現代に繋がるその先見性、
そして容赦なき世界観。

「悪い奴ほどよく眠る」

ゼネコンと公団の入札汚職の裏で蠢く、悪人たち、それに挑む復習者と言う図式のストーリー。悪に対し悪を持って挑むのは、ピカレスクロマンと呼ばれるジャンルであり、後に大薮春彦辺りが得意としているイメージ。これもまた黒澤が原型なのだろうか…。

ゴッドファーザーで引用された結婚式のシーンから幕は上がる。それはまるで登場人物の紹介であり、その置かれた状況を説明するかの如く。そして汚職に塗れた悪が聖なる儀式で怯え惑う皮肉…。また後で葬式シーンでかかる滑稽な音楽と悪意に満ちた言葉が被る皮肉と並び、黒澤の演出の旨さが光る。

前半、狡猾に敵を嵌め、追い詰めていく主人公、そして中盤、甘さ故に身バレしながらも強引な手段から復讐へと歩を進め…そして衝撃の展開を迎えるラスト。ピカレスクロマンの王道であり、完全なドラマとして既に出来上がってしまっているが故に、どこかで見たかの様なストーリー、凝視感すら感じる。(復讐者ではないが、松田優作の蘇る金狼も柱は同じ…。)それは後の作品が如何に模倣されたものかと言う事になるだろう。

何より…あのラスト。憤りすら覚える衝撃。生きていれば必ずある様な不条理、現実を叩きつけてくる黒澤の演出。直接見せないあのやり方が巧み過ぎる。終わった後、思わず漏れた一言はすげえ終わり方したな…でしたし。この時代にこれか…と。

演者は黒澤組オールスター。主人公、復讐者西役に三船敏郎。復讐と言う悪に染まりながらも、甘さとユーモアを持つ人間味溢れるキャラクターを愚直に演じている。彼の相棒に加藤武。金田一のよし!分かった!の警部で有名だが、これがベストアクトなんじゃないだろうか。彼の慟哭が耳から離れない。ふてぶてしくも愛嬌があり、見事な役。

敵方に森雅之。娘すら欺く悪辣ぶり。そこが一番悪いシーン。悪であるという意識の欠片もない役人ぜんとした存在が尚怖い。その部下になんと志村喬。小悪党役でもその演技は素晴らしい。その下に西村晃。黄門様です。茫然自失の表情がまた巧いんですよね。

ヒロインは香川京子。純粋過ぎて白痴かと想わせる(嫌味ですが…)美しく悲しい存在でした…。

これを見ると今も起こっている事件なんですよね…。どうしても役人、政治家、建設業と言う利権の絡む所には、汚職はついて回る。何も進歩していない。悪の普遍性と言うか…黒澤はそれすら見抜いていて、作品にしたかのようです。悪がのさばる社会への慟哭、加藤武の慟哭がある意味、ヒューマニスト、黒澤の本音でしょう…。
滝和也

滝和也