なんだか不思議な気分にさせられる。内容が変わっているとかそういうのではなく、物凄くテンポが良くて観やすいのに、非常にブラックな内容だからだ。これも黒澤が得意とする「対位法」なのだろう。音楽と映像だけではなく、内容と映画のトーンでもこれほど顕著に対位法を使っているのはこの映画ぐらいな気がする。敢えて主人公の痛快な復讐劇を描くことによって、あのラストの展開が余計に心に刺さるのだ。
やはり戦争の中を生きてきた黒澤明にとって国に対する不信感というものがあったのだと思う。だからこそ「巨悪」と戦う男を描き、そしてあんなラストに仕立て上げた。観終わった後は『悪い奴ほどよく眠る』という題名に込められた強い怒りを感じるだろう。