クシーくん

悪い奴ほどよく眠るのクシーくんのレビュー・感想・評価

悪い奴ほどよく眠る(1960年製作の映画)
4.1
三島由紀夫は黒澤明を「テクニシャンだが、思想はなく、中学生程度」とこき下ろした。いや、彼なりの褒め言葉なのか?
三島が黒澤の「思想」を蔑ろにしたのは、社会の不正義に対する反抗を余りにもストレートに、ひたむきに描きすぎているからなのだろう。黒澤のこの傾向は「天国と地獄」にも明確に表れている。
しかし「映画は小難しいことよりも先ず楽しめ」などと宣った三島の手落ちではないか。この映画は社会性やテーマを抜きにしても楽しい。

記者と刑事が詰めかけ、過去の不祥事を暗示するケーキ入刀が行われる不吉な結婚式に始まり、中盤までの復讐劇、或いは水面下での攻防戦、且つまたラストの衝撃的である種の現実的な、余りに非情な展開。
間の多い映画ながら片時も目が離せない。
掴み所のない西の人物造型も丁寧に描かれており、復讐者としての冷徹な怒りと愛の苦悩に挟まれる様子が滲み出る三船の演技は流石だ。
特に気に入ったのは加藤武演じる板倉の悲痛な叫びと、悪党・岩淵が電話口に何度となくお辞儀をするくだり。どちらも実に日本的なのだ。

アンジェイ・ワイダが指摘した通りハムレットの基本構図を意識しているが、三船演じる主人公の西は本家ハムレットに比べるとまだまだ清潔過ぎて、はっきり言えば甘い。彼が甘かったから、優しすぎたからこそ黒地に白々と、「悪い奴ほど良く眠る」という題字が活きる。
クシーくん

クシーくん