幽斎

アミューズメント・パークの幽斎のレビュー・感想・評価

アミューズメント・パーク(1973年製作の映画)
4.0
「遊園地で老人が罵られ、大変な目にあう。」販売元キングレコードのコピーだが、秀逸なイントロダクション。Filmarksはあらすじと紹介してるが、短くても言い得て妙とは此の事を言う。虚偽ジャケ写と邦題で有名なアメイジングD.Cは爪の垢でも煎じて飲め!と言いたい。京都のミニシアター、出町座で鑑賞。

キャッチーなジャケットで新作の様にも見える。製作は1973年と結構古いが、4Kデジタル・レストアされ、画質は思いの外鮮明。劇場公開用に作られた訳では無く、始めからDVD配布を念頭に製作。私は元クリスチャンだが、依頼主はルーテル教会。キリスト教団でルター派、プロテスタントの一角を形成。発祥はドイツだが北欧のキリスト信者の大半はルーテル、日本では福音ルーテル教会が分り易いかな。早朝のラジオ放送を聞かれた方も居るかも。「心に光を」毎日放送してるので興味の有る方は宜しければ。
http://www.wjelc.or.jp/mediacenter.htm

敬虔なルーテルが、年齢差別への世間の認識を高める目的で企画。しかし、完成した作品を見ると老人の悲惨な状況が何の手加減も無く映され、教団は愕然とした。良く言えばストレートに過ぎる、当時のアメリカ社会を描いた内容にルーテルは慄き、信者に配布するのは危険過ぎると封印。監督は前作「JACK'S WIFE」を製作。その人物とは?。

George A. Romero監督。ゾンビ映画の第一人者。ホラーの巨匠、カルトの鬼才。「JACK'S WIFE」邦題が「悪魔の儀式」。神聖なる教会がなんでゾンビ監督に依頼したのか、謎の様に見えるが実はソウでもない。監督とは映画を作って生計を立てるが、劇場とは別に映像作品を作る事で、映画の制作資金を集める事は日常茶飯事。例えば私の生涯2位作品「悪の法則」Ridley Scott監督はCM製作会社の社長から映画界に転身。「ロボコップ」Paul Verhoeven監督はオランダ海軍に従軍、教則映画を製作。今見ると「スターシップ・トルーパーズ」原型にも見える。本作は遊園地で3日間撮影して完成。Romero監督にしたらバイト感覚かもしれない。

高齢者を扱う映画は年々増加傾向だが、観客が高齢者予備軍だから当然。日本が超高齢化社会と悪戯に政府は煽るが、それは先進国なら何処も同じ。日本で言えば2045年に15歳以下の若者は凡そ10%、65歳以上の高齢者が約40%と厚生労働省は試算。日本の官庁で最も役に立たない厚労省の仕事振りは、皆さんもワクチン接種の稚拙な計画で御存じだろうから、過度に信用する必要は無い。

私はアラサーだが、間違いなく国の年金だけでは、とても逃げ切れないだろう。COVIDの影響で労働力が流動化、国民は自分の将来よりも来年も同じ職場で働けるのか疑心暗鬼の中で生活してる。少子化が著し過ぎるのは我々の責任で無いのは当然だが、政府は選挙目的でお年寄りに優しい政策を連発するが、将来的な事を考えれば独身者の支援こそ大切。自己防衛で資産を増やす事が出来る方は極く少数だろう。介護不足をテクノロジーで補わないと、私達の未来に明日はない。

主演Lincoln Maazel、彼は次作「マーティン/呪われた吸血少年」出演してるが、それ以外はルーテルを通じたボランティアでキャストを補ってる。老人が演じる訳だから、テーマである「年齢差別」今で言う高齢者虐待を毎日の様に感じてる人達。出演者の若者は介護施設で働いてる、彼らも高齢者の抱える不安を身を持って感じてる。その環境下に「老い」関心の無い人間に依る些細な行動が、どれだけのハレーションを生むのか?。

「格差社会」と聞いて何を思い浮かべますか?。殆どの方は貧富の差だと思います。COVIDの影響で、正社員でも理不尽な労働環境に置かれる事は多く、契約社員の方は身を削る思いで日々働いてらっしゃると思います。ですが、年齢が若ければ理屈上は挽回のチャンスは残されてる。それが定年間際だったらどうでしょう?。加齢と共に人は少なからず健康を害して逝く。年配の方でもお元気なら再就職、資格の有る方は厚遇されるでしょう。ですが、身体の不自由な高齢者にチャンスは殆ど残されてません。本作でも遊園地の食事のシーンで、その光景が再現される。これを見て笑う方は1人も居ないでしょう。

極め付きは遊園地内での事故。当事者も目撃した主人公も老人。駆け付けた警察は事故を起こした若者では無く、先入観だけで老人の過失と結論付けた。老眼とか認知能力が弱い、加齢と共に誰の身にも現れる可能性を、明確に差別だと描かれる。日本で置き換えると、痛ましいプリウスの池袋暴走事故だろう。当事者が上級国民とか、反省の態度が無いとか、ワイドショーもやる事無いから面白おかしく取り上げた。罪を認めない以前の問題として、私も将来加害者に為る事も有るとゾッとした。90歳被告に禁錮5年の実刑でスッキリした方も、何時かは同じ運命なのだ。

作品の台詞「高齢者は免許返納しろよ!」1970年代のアメリカと、今の日本では認識が全く違う筈なのに、寧ろ未来を予見してる様にすら感じた。虐待への啓発なのに、中身は無慈悲に虐待するストレート描写も凄いが、本来の意味は「貴方も将来こんな目に遭いたくなければ、老人に優しくして世の中を変えて活きましょう」若者へのメッセージ。まぁ、俯瞰して見れば監督の言い分も十分に解るが、映像的には容赦も、救いも、希望も、温もりも微塵も感じない。お蔵入りは当然だが「金を持たない老人は社会の害悪」とまで言い切るドライなタッチは、別な意味でゾンビ映画よりも凄かった。

「あなたもいつかは老いる」自分がいつも高齢者にどう接してるか?、真剣に考えたい。
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