ロックウェルアイズ

彼女が好きなものはのロックウェルアイズのレビュー・感想・評価

彼女が好きなものは(2021年製作の映画)
4.6
ゲイの安藤純は妻子持ちのマコトを彼氏に持ちながら、周りには本当の自分を隠していた。
ある日、書店でクラスメイトの三浦紗枝と衝突し、彼女が手にしていたBLマンガが床に落ちてしまう。
紗枝は、「腐女子」だという秘密を守るようにと純と距離を縮めたことで、自分の好きを否定しない純に次第に惹かれていく。

原作、ドラマは未見。
近年よくあるテーマだが、改めて胸に問いかけてくる、素晴らしい新感覚青春映画だった。
「好き」という感情を周りに合わせてねじ曲げることなんてできない。
それは恋愛対象に限らず、全てにおいて言えること。
そういう意味では、BLを通して自分自身の「好き」を見つめ直す映画なのかもしれない。
自分の「好き」や「嫌い」はそのまま信じ続けて欲しいし、それが他者から批判されるようなことがあってはならない。
しかし、
そう上手くいかないのが現実。
そんな現実の厳しさと、きっと目指せる理想の優しさを描いたのが本作だった。
本来ならば、初々しくてキュンキュンしてしまう告白やデートシーンも、背景の現実が分かっているとこんなに辛いものはない。
彼女が可愛ければ可愛いほど、純粋であれば純粋であるほど、胸が締め付けられて何度もうるっときてしまった。

彼はイヤホンを付け、真顔で刺してきそうな雰囲気を纏って、自分と周りの摩擦を避けてきた。
しかし、秘密はバレるもの。
中盤の事件をきっかけに溜め込んでいた思いをぶち撒ける純に号泣。
そして、全校集会の表彰で突如スピーチを始めた紗枝でさらに号泣。
その後も良い奴たちの優しい世界が続き、涙が止まらない。
小野の「みんな他人事」発言はまさにそうだと思う。
LGBTには理解がありますとか言って、結局は自分とは違うと。私だってきっとそうだ。
純も紗枝も亮平も小野も、それぞれの事情や価値観は違うからこそ、それらをまずは自分の中で大切にすることから始めるべきなのかなとも思った。

タイトルの『彼女が好きなものは』。
個人的には秀逸だと思う。
彼女が好きなものは⬜︎
⬜︎の中の言葉はこちらの想像力を掻き立てる上、一つに定まらない。
原作からの改編は悩ましいところだっただろうが、どこか物悲しいようなスッキリしているようなラストにぴったりだ。
『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』と現実を嘆くところに留まらず、紗枝や亮平や母親といった寄り添ってくれる人もいるよという希望の物語。
もしも性を固定されることのない、カクレクマノミの水槽のような世界があったなら。
いつかBL星に連れてってよ。