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彼女が好きなものはのRのレビュー・感想・評価

彼女が好きなものは(2021年製作の映画)
4.4
映画好きの人のTOP10リストからランダムに作品を選択し鑑賞する第7弾はこれでした! 比較的興味が湧かないタイトルのやつから見ていっているのですが、これはホンマに全然期待してなかった。彼女が好きなモノ? 興味ねー。普通のラブコメなんやろ? と。見てみると全然違ってました。非常に丁寧に作り込まれていて、かなりディープでヘビーなとこまで降りていく。アニメ映画のカラフルに似た丁寧さを感じた。しかも、かなり情報量が多く、時々セリフや状況を理解するために、ストップしてしまったくらい。思考を促すボタンが結構たくさん散りばめられている。日本映画では珍しいタイプの映画な気がした。主人公はホモの高校生、安藤。母子家庭で育った彼は、どことなく冷めた雰囲気があるが、実は将来、幸せな家庭を築きたいと思ってる。ホモなのに。この時点で、ちょっと考えさせられる。電車に乗ってるときに彼が見かける吊り広告は、どれもこれも幸せな家庭、理想的な家庭のイメージが載っている。その家庭像はヘテロセクシャルを前提にしたものだ。あたかもそれが唯一の幸福の形であるかのように。洗脳です。電車に揺られ、安藤は彼氏に会いに行く。彼氏は40前後の子持ち既婚者。幸せな家庭の裏で、彼はコッソリ安藤と会い、本当の自分に返って、愛を交わす。もちろん誰もそのことは知らない。安藤君は、ある日、ひょんなことから、同じクラスの女子三浦さんと交流を持つようになる。彼女は隠れ腐女子で、BL漫画の大ファン。まさか安藤がゲイであるとは知らない彼女は、ある日観覧車のなかで安藤に告白……観覧車から出てきて泣いている彼女……フラれたのかなと思いきや、まさかの正式交際に! さて😓、ここから一体どんな展開が待っているのか、てかもう流れ的には、どっかでバレるしかないやんと、ヒヤヒヤしながら見てて、まぁでも所詮ちょっとややこしい恋愛ドラマやろとたかをくくって見てると、だんだんパンチが効いてくる。ゲイとして生きる高校生にまつわるさまざまな困難が描かれていく。もちろん、みんながみんな安藤と同じような問題を抱えるわけではないし、僕の知ってる高校生とかは、周りのみんなにカミングアウトしてるって子も数人いるし、状況はみなそれぞれ違うだろうが、住んでるのが都市部でない場合は、安藤くんみたいな感じの子、多いだろうなー、と思った。というわけで、そういう高校生には是非とも見てもらって感想を聞きたいところだが、本作はむしろ、ヘテロの人が見たほうがもっともっと面白いと感じるんじゃないだろうか。おそらく日本のヘテロの人って、実生活でセクシャルマイノリティの人に会った経験がある人ってかなりの確率でいないと思うんやけど、統計的に考えたら、いままでにそこそこの人数に会ってきてるはずなんすよね。むしろ、血族にひとりふたり、またはそれ以上いても全然不思議はない。そんな状況なので、多少オープンになってきているとはいえ、社会には、ヘテロ視点以外の視点がほとんど存在していない。実際、安藤くんの彼氏のように、ヘテロ視点の幸福像にのっかるために結婚し、二重生活を送ってる男が日本にはけっこう多い。(余談: 多様なセクシャルの情報にアクセスしやすくなった現代、昔なら行動を起こさなかったであろうバイキュリアスの人たちも、その好奇心をいとも簡単に満たすことができる。) また、そういったヘテロの理想像に、ヘテロの人たち自身も苦しめられている。なぜならその理想像を完璧に体現できる人なんてひとりもいないから。そこから少しでも外れてしまうことは、苦しみを伴う。安藤は、物理の問題の「ただし摩擦はなしとする」という条件づけを取り上げて、「複雑なことを無視して世界を簡単にしたくない」と口にする。広告の理想の家族像のなかに摩擦は存在しない。だが、現実には、摩擦は存在していないほうがめずらしい。また多くの「ことば」はできるだけ世界を簡単にしようという意図で使われる。自分の価値観と合わないものに対して使う「キモい」の三文字は、その対象に含まれるあらゆる微妙な要素のすべてをばっさり切り捨ててしまう乱暴さがある。キモい!とバッサリ切り捨てられた同じ人物が、「うるさいおっさん黙ってろ!」とバッサリ「おっさん」ということばで切り捨てる。ことばを使うと、どんな刃物よりも鋭くすべての事象を単純化し、切り捨てることができるが、そういう力も含めて、僕は、ことばはこの世界に存在する、唯一の魔法だと思っている。代表的だが、たとえば「大」「犬」「太」を取ってみても、あらためて言葉の不思議な力に目が覚めるような気持ちがする。ことばには力がある。その力を甘く見てはいけない。かといってこだわり過ぎてもそれはそれでダルい笑 けど、やっぱそのような力があることは知っておかないといけないよな。などなど、他いもいろいろほんとにいろんなことを考えさせられる映画だった。どんな映画も見くびってはならぬな、と改めて思わされた。本作は、ほんとに、今の若いひとたち全員に見せていいんじゃないかな? てか見せたほうがいいんじゃないかなってくらい、良いテーマがたくさん含まれていた。いままで見ようと想像したことすらない視点が、本作を見ると得られるはずだ。特に、性教育がまったく現実離れしててプラクティカルでないと批判されることの多い中・高生たちには見てみてほしいな、と。まだまだいろんな視点を身につけるのに最適のフレキシビリティーを備えてる間に。多角的に物事が考えられるというのは、人生を生きていくなかでものすごく役に立ちますので。是非とも見てみてください。彼女が好きなものは……⁇
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