MasaichiYaguchi

生きろ 島田叡 戦中最後の沖縄県知事のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.8
太平洋戦争末期、1944年10月10日に米軍による大空襲で壊滅的な打撃を受けた沖縄に、翌年1月に大阪府の内政部長だった島田叡が沖縄県知事として赴任する。
本作は、戦中最後の沖縄県知事となった島田叡の人となり、生き方、考え方を、沖縄戦を生き延びた県民たち、軍や県の関係者、遺族のインタビューを中心に、「米軍が最も恐れた男 その名は、カメジロー」の佐古忠彦監督が沖縄戦中史の中で浮き彫りにしていく。
沖縄戦を描いた映画というと、一番有名なのが「ひめゆりの塔」になると思うが、この作品以外にも「きけ、わだつみの声 Last Friends」とか、近年では「ハクソー・リッジ」、本作と同様なドキュメンタリー映画では「沖縄 うりずんの雨」、「沖縄スパイ戦史」がある。
県民や兵士の立場から描いたこれらの作品との違いは、本作は官吏側から沖縄戦を描いている点にあると思う。
敗色が濃くなっている中で、本土決戦の前哨戦の舞台となる沖縄に赴任した島田は家族と別れ、死を覚悟して職務に臨んでいる。
島田は知事就任と同時に大規模な疎開を促進させたり、前年の大空襲で食料不足になっているところを台湾に飛んで県民の為に米を確保する等、様々な施策を行っている。
そして米軍が沖縄本島に上陸してからは、自然の洞窟を移動しながら壕として行政を続けている。
だが戦況は益々悪化、生き地獄のような様相を呈する中で多くの県民が命を落としていく。
それに比例するように軍からは無理難題、不条理な要求を突き付けられた島田は行政官として県民第一主義という自らの信念との間で葛藤、苦悩していくことになる。
極限状況の中でも島田の人間味溢れる行動や言動がインタビューで語られていくが、玉砕こそが美徳とされた時代に抗う島田の姿が鮮明に浮かび上がる。
それを象徴するのがタイトルにもなっている島田が周囲の者達に言い続けていた「生きろ」という言葉。
コロナウイルス禍で揺れる社会、非常事態宣言の発令、そして期限の延長、更にこの後に予定されているワクチン接種、我々の日常は正に行政官の采配によって大きく左右されてしまう状況にある。
本作からは、改めて沖縄戦とは、先の戦争とは何だったのか、国を司る政府の役割とは、そういった様々な投げ掛けが伝わってきます。