コーマック・マッカーシーの小説『血と暴力の国』を映画化したスリラー。麻薬取引の大金を巡り3人の男が繰り広げる〈暴力〉と〈逃亡〉の物語。音楽が無く淡々とした緊迫感ある進行と殺し屋シガーの個性が強烈なるも、全体を見ると哲学・文学的な要素が強め?〈楽しくない〉けど〈面白い〉そんな感じ🤔(140文字)
****以下ネタバレあり&乱雑文****
◆あらすじ◆
1980年のテキサス州。ベトナム帰還兵のモスは荒野にて動物狩りをしている最中に麻薬取引現場に出くわす。ギャングたちは銃撃戦の末に全員死亡。モスはその現場で200万ドルの大金が入ったカバンを発見し盗んで逃げだした。しかし慌てて逃げたことで現場に車を置きっぱなしだったことからギャングに金を盗んだことを気づかれてしまう。ギャングのボスが殺し屋アントン・シガーを雇い金の回収を命じたため、モスは恐ろしき殺し屋に追われることになり逃亡生活が始まった。一方、地元の保安官であるベルもモスの状況に気がつき彼を助けようと行方を追うが…。
❶コーマック・マッカーシーの小説『血と暴力の国』を映画化したスリラー作品
現代アメリカ文学を代表する小説家コーマック・マッカーシーの原作『血と暴力の国』を映画化したスリラー/サスペンス作品です。日本でのタイトルは『No Country』ですが原題は『No Country for Old Men』らしい。前者の方が受け取り方は広義にはなりそうですが後者の方が映画の物語に沿うという意味で分かりやすいかもですね🤔
1980年テキサス州。麻薬取引の大金を巡って繰り広げられる〈暴力〉と〈逃亡〉のおはなし。重要な登場人物は3人です。ギャングの麻薬取引現場に居合わせて大金の入ったカバンを見つけてしまい、それを持ち去ったベトナム帰還兵の男モス。ギャングにモスから金を回収するように雇われた殺し屋シガー。それに気がつきモスを助けようと事件を追う老齢の保安官ベルです。逃げるモスを片や殺すため、片や守るために追っているうちに〈モスの結末〉と〈ベルの結論〉を迎えます。そして〈シガーはどこかでもシガー〉です。
このシガーが格別に印象的な人物です。殺し屋でその所作に躊躇いがないのですが、そこには愉悦・快楽もなく、背景も微塵も感じさせず、ただ息を吸って吐いているように〈生き物〉を殺す、そんな男です。どんな人物でも生物でも分け隔てません。殺さない理由…コイントスが〈殺さない〉を選ばない限りは誰でも平等に殺していきます。そのコイントスさえやるかやらないかはシガーの気まぐれ。自分のルールのみで生きているため会話は成立せず、どこか浮世離れした姿。他人の生死を勝手に握り無慈悲かつ無感情に行使するその存在はホラーにさえ近く、怪異にただたた人々が蹂躙されるような不条理ホラーは度々目にしますが、それを「人」に煮詰めるとシガーのような男ができあがる…怪物、天災、運命。これほど危なげがないキラーも珍しいかもしれません。
ただし、本作で強烈な存在感を放って映像に鑑賞者を惹きこむのは殺し屋シガーですが、物語を具体的に進めていく中心人物は追われるモスであり、しかしもっと引いた目線で作品全体を見ると最も重要で真に主人公を担っているのは保安官のベル…ということになるかと🤔
追うシガーと追われるモスが強調されているようで、実は対比が色濃いのはシガーとベルであり、3人がそれぞれに違う役割を担うことで物語に恐怖と衝撃と哲学を与えていく…みたいな感じですかね。音楽がないのも特徴で静かに淡々と進んでいきます。
❷〈楽しくない〉けど〈面白い〉、〈退屈〉だけど〈興味深い〉
鑑賞後の率直な感想は「楽しくない」「退屈だ」、そして最後まで見て「やっと面白い」でした。この感想は同原作者の他小説…コーマック・マッカーシーの小説『ザ・ロード』を読んだ時と同じでした(映画は未見。マッカーシーで唯一読んだ小説です)。『ザ・ロード』は核戦争によって世界が荒廃し、冬のような環境に覆われてしまった近未来。人類が築き上げた文明は崩れ去り、人間のモラルが失われた世界で生き残った父と幼い息子が安息の地を求めて長い旅をするSF物語です。
この小説は〈人間の愚かさにより荒れ果て不条理に塗れた世界〉の様子を父と子の視点にて静かに淡々と描くので、ストーリーとしてのエンタメ性は抑えめで、しかし荒廃した世界とモラルを捨て去った人間たちの描写によるショッキングさで興味を引き、その事柄にたいする父と子の哲学的なものを含む対話に面白さを感じます。
そして非人道的なことが蔓延る〈世紀末〉の世界で、それでも〈善き人〉でありたいと葛藤しながら〈火を運ぶ〉をいうキーワードと共に歩んでいく父子の姿に感慨深くなったり考えに耽ったりする…そんな感想でした。
本作も私には似たような感じ。音楽は無くバイオレンスなのにそれを極力エンタメ的には描かずストイック寄り。余白がない恐ろしさ・静かな狂気が演出されるので15分くらいは緊張感を持って鑑賞していたのですが「あ~、ずっとこういう感じか」と理解してからは割と単調に感じていました。ストーリーを担当するモスの動きはただ逃げていくだけです。ただしその静けさの中で狂人〈殺し屋シガー〉のショッキングな言動により画面に興味を引き寄せ、最終的に出番の少ないベルのシーンで物語の全体像が見えて哲学的、あるいは文学的な〈面白さ〉をやっと感じる…そんな感じ。というわけで『ノーカントリー』の原作を読んでいないくせに勝手を言いますが「この映画は原作の雰囲気にけっこう忠実なのかな」という印象を受けました。
〈楽しくない〉けど〈面白い〉、〈退屈〉だけど〈興味深い〉。そんな映画は少ないながら時々に出会いますが、私には本作はそのタイプだったかも。とはいえ…よく分からないところも多く、正直ピンときてはいないのですが…😅
1回見ただけじゃ難しい…🙃
(というか複数回見たってきっと難しい)
ただ、何はともあれ。夢の中の焚火の話をするベルを見ながら「(『ノーカントリー』はそういう話ではないかもですし火の意味も『ザ・ロード』と違うかもですが)焚火かぁ~。火を運ばないと。今や時代がすっかり変わって、突然の不条理に囲われ、恐怖が蔓延り、居場所を見出せない世界(『No Country for Old Men』)でも、〈善き人〉であるならば〈火〉を運ばないと。運び続けられるのか、そしてそれで世界がどうなるかは分からないけど…」そんな風にボンヤリ思いました(この映画を見ている最中はずっとボンヤリ)
🔫🐝「こういう作品ってムズカシイ。
アタマヨクナリターイ(*゚∀゚*)(ダメそう)」