カツマ

ノーカントリーのカツマのレビュー・感想・評価

ノーカントリー(2007年製作の映画)
3.9
目が笑っていない人の顔って何でこんなに怖いのだろうか。しかも彼の口角は口裂け女のようにニヤリと鋭角に切れ、頭に乗るのはサラサラのマッシュルームカットだ。彼は歩けば死体が転がる死の配達人、殺戮の権化。息を吸うように人を殺し、他人の運命を圧倒的な恐怖で支配する。そんな殺戮マシンのような男に立ち向かうのが老警官となれば『血と暴力の国』のクーデターは防ぎようもない。
圧倒的な暴力への無力さにアメリカの原風景を重ね合わせ、網の目のように多義性を編み込むことに成功。コーエン兄弟の代表作としてオスカーに金字塔を打ち立てた作品だ。

1980年代のテキサス。若い警官はある男を拘束し、署へと連れ帰る。しかし、その男は警官を絞殺し、脱走。その男の名前は殺し屋アントン・シガー。彼は麻薬取引で受け渡しされるはずだった大量の現金を盗んだ者を殺すため、非情な追跡者となる。
麻薬取引の現金を盗んだ男はベトナム帰還兵のルウェイン・モスだった。彼は追っ手の存在に気付き、いち早く妻を実家に帰し、自らは追っ手シガーとの激突に備えていた。
殺し屋シガーと現金を盗んだモスを追うのは定年間近のロートル保安官エド。しかし、彼が行く先々ではすでにシガーの餌食になった大量の犠牲者の血でまみれていた・・。

これだけの凄惨な事件を扱った作品ながら、人が殺される現場のシーンは思いのほか少ない。ちょっとした所作が『すでに殺し終わった』後を彷彿とさせたりと、無味乾燥で体温を感じない淡々とした作品だ。

善悪の基準を超越し、絶望の果ての諦めのようなドライ過ぎる視点が特徴的。その冷血さがコーエン兄弟の見たアメリカの原風景だったのかもしれない。殺し屋は未だに巣食うアメリカの闇そのものか。モラルは無くとも信念はある、そんな自虐的な叫びが聞こえてきそうな作品だった。